清々しい現役引退の1コマ(2)
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「サブちゃん」こと北島三郎よりもまし
A社を引退した会長に電話取材した。「出社もせず、社員の方々にも会わず、指示もせずに過ごしていたら、ストレスが溜まりませんか」と尋ねると、会長は「いえ、夫婦で長期間の議論をして到りついた結論です。後悔はありません。社長、幹部、社員らの頑張りを信用するしかありません。今ストレスを感じたら、長生きできないではありませんか!!」と自信に満ちた回答が返ってきた。会長ご夫人は「サブちゃん(北島三郎)よりも、夫の方が恵まれている」という。
会長ご夫人の言葉の意味を説明しよう。つい先日、北島三郎の音楽コンサートを夫婦で鑑賞したところ、会長より2歳年上のサブちゃんの老化ぶりに驚いたという。ご主人のほうがはるかに元気だという。サブちゃんは昨年、足の指を8本、骨折したそうで、自分の力のみでは歩けないために人の手伝いが必要だ。そのため、コンサートでも、立ち上がってアクションを取る動きは無理である。
筆者の2歳年下の義兄は、サブちゃんの大ファンであった。「我が人生はサブちゃんとともにあり」というほどの熱烈なファンであったため、毎年、博多座での北島三郎の興業に招待していた。10年ほど前に、義兄が「サブちゃんも高い声が出なくなった。もう終わりだな」と落胆していた。北島三郎の弱体化とともに、義兄も衰弱が目立ち始めた。家族も本人も「人生は今年で最後だ」と言い続け、今では10年が経っている。
筆者も、10年ほど前に博多座で演歌を絶唱するサブちゃんに憐れみを感じた。十分に高い声を出せず、絶唱ができていなかったことを思い出す。
A社会長と論じ合い「北島三郎に対する歌手、エンターテイナーとしての尊敬の念はいまやなくなりました。老いとの一徹な戦いへの姿勢に感銘し、共鳴することしかできなくなりました。こういう状況になると、潔く引退することを望みます」と意見の一致を得た。
リスクを背負わせなければ成長はない
2歳年上のA社会長はサブちゃんよりも元気だが、社員らと会社の為に身を引いた。会長は、「社内から社長を抜擢して5年になる。得意先や銀行からの信用も厚くなった。今まではそれでも懸念が拭いきれず、堪えきれなくなって口を出してきた。しかしある日のこと、私たちが倒れた時には残された社長、社員らはどう対応するのであろうかと気になり始め、ここはリスクを背負わせる鍛錬が必要であると核心した」と心境を語る。
政治の世界でも2代目、3代目、4代目の政治家が蔓延している。家柄や地盤を含めてあらゆるものを継承した者に、有権者のために汗を流す使命感をもてるはずがない。今回、安倍首相の辞任した背景には、コロナの流行による国民の怒りや批判に耐えられるほどの気力が無かったことがあるだろう。安倍首相の祖父や父は「死ぬか生きるか」という政治闘争を潜り抜けた世代であり、そのため安倍首相とは器量・度量がまったく異なる。
社長・幹部社員らに自分たちで決定させて責任を取らせることにより彼らの実力がつくという判断は的確である。「人間の尊厳は、どれだけ多くのリスクを背負い、解決してきたかという修練により決定な差が生まれる」。大本教の根幹となる教えである。
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