孫正義氏の究極の選択~ソフトバンクグループの株式の非公開化はあるか?(3)
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投資会社ソフトバンクグループ(株)(SBG)の「株式非公開化」観測が駆けめぐる。株式非公開説は今回が初めてではなく、危機に直面すると噴出してきた。孫正義会長兼社長は2009年と15年にも、株式非公開化を検討した。今年は「3度目の正直」となるか。
英アーム株を4.2兆円で売却
SBGは保有資産4.5兆円を売却、資金化を進める一環として、8月上旬までにアリババ株を活用して計1.6兆円を調達した。
SBGはここ半年で、中核と位置づけてきた事業の売却を一気に進めてきた。携帯電話事業では、6月に米通信大手TモバイルUS株の大半を2兆円で売却し、米市場から撤退した。国内携帯電話大手のソフトバンク株5%を5月に手放したことに続き、9月14日には、最大で1.2兆円分を売却すると発表。出資比率は62%から40%に下がる。ソフトバンクはSBGの連結子会社として残るが、SBGの影響力は低下する。
SBGは9月14日、傘下の英半導体設計大手アームの全株式を、米半導体大手エヌビディアに最大400億ドル(約4.2兆円)で売却すると発表した。4.2兆円のうち半分超をエヌビディア株で受け取る契約で、SBGはエヌビディア株の6.7~8.1%を保有する大株主となる。
SBGは2016年に、孫氏が「未来の水晶玉」と絶賛するアームを3.3兆円で買収した。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)時代の主役をアームが担うという孫氏の確信のもと、株価に4割のプレミアムを載せて買収した。
スマートフォン向けCPU(中央演算処理装置)で圧倒的な世界シェアを誇るアームについて、孫氏は自社の他事業との相乗効果を狙ったが、目立った成果は上げていない。買収した16年度以降アームの利益は右肩下がりで、20年3月期に約85億円の純損失を計上。当初の戦略的事業子会社から一投資先に位置付けが変わった。
孫氏には通信事業で成功した「事業家」と、中国のアリババ集団に投資した「投資家」の2つの顏があった。アーム売却は、「事業家」の顏を捨てたことを意味している。
孫氏の「冒険投資家」宣言
今年2月12日に開かれた決算説明会で、孫氏は「SBGは投資会社であり、事業会社ではありません」と断言した。
「では、これからは孫さんのことを事業家ではなく投資家と呼んでいるいいですか」と記者が尋ねると、孫氏は「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏に言及し、こう答えている。
「先だって台湾に行ったとき、台湾の新聞が『日本の冒険投資家がやってきた』と書いていました。私はウォーレンのような『賢い投資家』ではありませんが、『冒険投資家』ですね」
孫氏が自信満々に「冒険投資家宣言」をした3カ月後に、SBGは史上最大の大赤字を発表することになった。
SBGが5月18日に発表した20年3月期の連結決算(国際会計基準)は、営業損益が1兆3,646億円の赤字、最終損益が9,615億円の赤字だった。「冒険投資家」の目利きに疑問符がつけられた。昨夏以降、投資先の経営が急速に悪化している。シェアオフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーは乱脈経営が問題視され、同社の上場延期で巨額損失を計上した。米衛星通信会社ワンウェブは今年3月、事業が軌道に載る前に日本の民事再生法にあたる連邦破産法第11条を申請した。
ファンドである以上、「あたり外れ」があるのは避けられないが、ウィーカンパニーへの投資失敗は、孫氏の目利き神話の終わりの始まりといえるほど経営を揺るがした。
(つづく)
【森村和男】
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