【クローズアップ】全東信破綻、福岡の飲食店に打撃 動き始めた支援と巨額負債を生んだ事業構造

 クレジットカード決済代行大手・(株)全東信の破綻により、福岡市内の飲食店でも、カード売上金の未入金や決済端末の停止が生じている。全国では約2万店、総額約53億円の売上金が未入金となり、一部の地域金融機関も多額の貸倒引当金の計上を迫られた。加盟店や公的支援機関への取材から、被害の実態と、早期決済サービスを支えた事業構造の脆弱性を追う。

売上金が入らない
福岡の飲食店にも打撃

イメージ「3週間分ほどの売上金が、いまだに支払われていない」
 福岡市・中洲の小料理店の店主は、困惑した様子でこう話す。同店がクレジットカード決済の代行を委託していた(株)全東信は、7月6日に大阪地方裁判所から破産手続開始決定を受けた。突然のサービス停止により、加盟店ではカード売上金の未入金と決済端末の停止が同時に発生した。

 別のレストランでも、7月1~5日のカード決済分が未入金となっている。同店は手数料の安さを理由に20年以上前から全東信を利用し、売上全体の約3割をクレジットカード決済が占めていたという。同店は「現在もクレジットカード決済を受け付けられず、お客さまに不便をかけている。すでに別の決済業者へ申し込んでいるが、導入は8月以降になる予定だ」と説明する。

 加盟店を襲ったのは、すでに決済された売上金が入金されないという被害だけではない。代替端末の導入まで約1カ月を要する見通しで、その間は現金やほかの決済手段で対応せざるを得ない。カード払いを希望する客を取りこぼす可能性もあり、現在の営業にも影響がおよんでいる。売上金の未入金と営業機会の喪失という二重の打撃となっている。

 飲食店の経営事情に詳しい専門家によると、同社を利用していた店舗は、数年前の手数料引き上げを機に契約を見直した店舗と、切り替えの手間などを理由に利用を継続した店舗に分かれたという。専門家は「手数料の引き上げを機に別の決済業者へ変更した店舗は、今回の被害を免れた。一方、変更手続きの煩雑さなどから利用を続けてきた店舗が被害を受けている」と指摘する。

 全東信が破産した時点で直近の取引があった加盟店は約3万2,000店とされ、同社のサービス停止により、各地でクレジットカード決済を受け付けられない店舗が相次いだ。このうち約2万店では、主に7月1~5日のカード決済分、総額約53億円の売上金が未入金となっている。

福岡でも相談窓口を設置
本格的な支援はこれから

 全国の加盟店で売上金の未入金や決済停止の影響が広がるなか、経済産業省は、影響を受ける中小企業・小規模事業者への資金繰り支援を開始した。日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、商工中金、信用保証協会の全国計378カ所に特別相談窓口を設置したほか、政府系金融機関によるセーフティネット貸付の要件を緩和した。

 また、7月10日時点では、同社に対して売掛金債権を有する事業者を対象とするセーフティネット保証1号の指定に向け、事前相談を開始している(※)。

 日本政策金融公庫などが取り扱う「セーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)」では、同社の破産によって影響を受けた事業者に対し、融資要件を緩和した。通常は、直近3カ月の売上高が前年同期比で5%以上減少していることなどを要件とするが、今回の措置では、こうした数値要件を満たさない場合でも、資金繰りに著しい支障が生じているか、生じる恐れがあると認められれば融資対象となる。日本政策金融公庫の担当者は、「特別相談窓口を設置して対応している」と説明するが、「制度の運用は始まったばかりで、相談件数や融資実績について公表できる具体的な数値はない」としている。

 福岡県信用保証協会も特別相談窓口を設置している。同協会によると、相談がまったくないわけではないが、「殺到しているほどではない」という。相談者は小規模な飲食店が中心だ。担当者は、「給与を日払いする慣習などがあり、日々の現金収入を必要とする水商売の店舗が、相談者に占める割合としては比較的多い」と説明する。カード売上が入金されないことで、給与や仕入れ代金など、直近の支払いに影響が生じている可能性がある。

 一方、資金繰りに困った事業者は、まず取引金融機関へ相談するケースが多い。信用保証協会は事業者に直接融資するのではなく、金融機関からの保証申し込みを受けて審査する機関であるため、今後は取引金融機関を通じた相談や保証申し込みが増えるとみられる。

 商工中金福岡支店によると、全東信の破産を受けて特別相談窓口を設置しているものの、現時点で同支店への具体的な相談案件は確認されていないという。なお、商工中金は、独自の融資制度である「セーフティネット関連資金」の取り扱いをすでに開始している。この制度は、信用保証協会によるセーフティネット保証1号とは異なる。

 経済産業省によると、全国の相談窓口には7月13日時点で82件の相談が寄せられた。相談内容には、売上金の未入金による資金繰りへの懸念や、融資に関する相談などが含まれている。ただし、融資実行額や保証承諾件数など、その後の支援実績の全体像は明らかになっていない。制度が実際にどこまで被害事業者の資金繰りを支えられるかが、今後の焦点となる。

 加盟店と金融機関を巻き込むこれほど大きな被害は、なぜ生じたのか。その背景には、全東信の成長を支えた早期決済サービスと、多額の運転資金を必要とする事業構造がある。

※事前相談が行われていたセーフティネット保証1号について、国は7月31日、全東信を同制度の事業者として正式に指定した。同制度は、大型倒産事業者に売掛金債権を有し、資金繰りに支障が生じている中小企業に対し、信用保証協会が通常枠とは別枠で借入額の100%を保証するもの。対象は、全東信に対して50万円以上の売掛金債権を有する事業者、または50万円未満の債権額しか有していないが、全東信との取引依存度が20%以上の事業者となっている。

なぜ被害は広がったのか
全東信の事業構造

 全東信は1987年創業、2006年9月設立で、大阪市中央区に本社を置くクレジットカード決済代行業者だ。全国の飲食店、美容サロン、小売店などと加盟店契約を結び、加盟店とカード会社の間に入って決済を代行してきた。20年以上にわたり、業界のリーディングカンパニーとして知られていた。同社の債権者は115者、負債総額は1,151億6,491万円に上る。このうち金融債権者は63社で、貸付総額は約1,130億円だった。

 巨額の負債を抱えるに至った背景には、加盟店から支持を集めた売上金の早期決済サービスがある。一般的なクレジットカード決済では、売上金の入金日は締め日から15日後、30日後、45日後などに設定されており、実際に口座へ入金されるまで一定の期間を要する。店舗では、売上金が入金される前に、仕入れ代金や人件費、家賃などの支払いが先行する。このため、入金までの支払いに充てる一定の運転資金を手元に確保する必要がある。

 これに対し、全東信はカード売上を最短4日後に加盟店へ支払う早期決済サービスを提供していた。月6回や月8回という高頻度の入金により、手元資金に余裕がなく、売上金を早期に現金化する必要がある中小飲食店や個人事業主から支持を集めた。通常、客が加盟店でカード決済を行うと、カード会社側が売上代金を取りまとめ、契約で定められた期日に加盟店へ支払う。全東信の早期決済サービスでは、カード会社側から売上代金が入るのを待たず、全東信が手数料を差し引いた金額を加盟店へ先に支払っていた。その後、カード会社側から全東信へ売上代金が入金されることで、同社は立て替えた資金を回収していた。

 加盟店は通常より早く売上金を受け取れる一方、カード決済の処理と売上代金の入金を全東信に依存することになる。同社が破産すれば、加盟店が受け取っていないカード売上代金は、全東信に対する未回収債権となる。決済端末の停止と売上金の未入金が同時に発生したことで、破綻の影響は多数の加盟店へ一気に波及した。

 また、早期決済サービスを維持するには、カード会社側からの入金前に、全東信が加盟店へ支払う資金を用意しなければならない。加盟店数や決済取扱高が増えるほど、同社が先行して用意しなければならない資金も増大する。

 加盟店にとって利便性が高い一方、全東信にとっては恒常的に多額の運転資金を必要とする仕組みであり、金融機関からの借入への依存を強める一因になったとみられる。

図

コロナ禍で業績低迷
信用失墜がとどめに

 経営悪化の一因となったのが、コロナ禍における飲食店の営業自粛や利用客の減少だ。主力顧客である飲食店のカード決済額が落ち込み、同社の収益も減少した。さらに、2024年には、カード会社の審査を通らない飲食店について、加盟店契約を他人名義で不正に申し込んだとされる事件が表面化した。同年3月、同社の男性幹部が私電磁的記録不正作出・同供用容疑で書類送検されたほか、元社員ら2人が組織犯罪処罰法違反(犯罪収益仮装)容疑で逮捕された。法人としての同社も、同法の両罰規定に基づき書類送検された。

 これを機に信用不安が拡大し、金融機関などからの資金調達が難しくなった。早期決済サービスを維持するための運転資金を確保できなくなったことが、経営破綻の大きな要因とみられる。加えて、少なくとも20年前から粉飾決算が行われていた疑いも浮上している。預金や債権の水増し、加盟店への未払金の未計上などにより、財務内容を実態より良く見せていた可能性がある。実質的には約605億円の債務超過に陥っていたとも指摘されている。

金融機関にも波及
相次ぐ貸倒引当金の計上

 全東信向け債権の金額や保全状況を公表した金融機関では、担保や既存の引当金などで保全されていない部分について、貸倒引当金を計上する方針が相次いで示された。

 東和銀行は、貸出金80億円のうち、担保・引当金などで保全されていない58億8,600万円を、27年3月期に全額引当処理する方針だ。三十三銀行も、貸出金50億円のうち、非保全額約27億円について必要な引当処理を実施する。

 東京スター銀行は、破産手続開始決定時点で80億円の貸出金があったが、その後、約40億円を回収した。残る40億円については、27年3月期第1四半期に全額を貸倒引当金として計上する予定だ。

 大光銀行は、担保・引当金などで保全されていない貸出金15億円の全額を引当処理する。島根銀行も、貸出金8億円の全額が非保全となっており、引当処理を行う。高知銀行は貸出金12億円のうち9億1,500万円、南都銀行は5億円のうち約3億円を、それぞれ全額引当処理する方針を示した。

 一方、山口銀行は、全東信向け貸出金74億円について、担保などにより全額が保全されていると説明した。与信関係費用の発生は見込まず、山口フィナンシャルグループの業績予想も変更していない。

 片山さつき財務相兼金融担当相は10日の会見で、現時点で金融システムへの影響はなく、今後も重大な影響は生じないとの認識を示した。ただし、全東信の破綻が複数の地域金融機関に多額の貸倒引当金の計上を迫った影響は無視できない。

 全東信の倒産は、キャッシュレス決済の利便性の裏側に重大なリスクが潜んでいることを、改めて浮き彫りにした。その影響は加盟店にとどまらず、金融機関にも波及し、消費者にもカード決済を利用できないなどの不便を生じさせている。

 未回収債権への対応や加盟店の資金繰り支援など、解決すべき課題はなお多く、事態収束の見通しは立っていない。

【岩本願】

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