2024年11月23日( 土 )

【BIS論壇N0.330】インドの現状と中印関係(前)

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 NetIB‐Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。今回は2020年9月18日付の記事を紹介。


 日印パートナーズ社は9月18日、『アフターコロナのインドビジネス戦略』と題した、興味深いZOOM会議をインドと日本をつないで開催した。

 インドからは経済研究家のRitesh Kapoor氏、およびDeepak Sinhmar氏が参加。日印パートナーズ(合)の伊東賢治・公認会計士が司会を行った。

 インドのコロナ感染者数は、米国の655万人に次いで2番目に多い447万人で、ブラジルの419万人を追い越した。米国は死者数が19万5,000人だが、インドは死者数が7万5,000人で死亡率は1.7%。インドは貧困層が多く、ブラジルの貧困地域ファベーラに匹敵する貧困地帯がある。しかし、インドはコロナを何とか乗り越えるため、日本円で28兆2,500億円相当の経済政策を打ち出し、20年7月には前年比90%増まで輸出を拡大。失業率も7.4%に抑えており、インドの得意なIT部門の収益も向上。電力消費も通常に戻りつつある。

 20年4~7月のFDI(外国直接投資)でも、世界の主要15社が2兆1,200億円をインドに投資した。米Philipsが43億円、コーラの物流会社が32億円を投資。リモートワークへの関心も高まりつつあるため、自動化、AIなどの分野にさらなる投資が行われているという。

 モディ政権は「Make in India」にさらに注力している。現地調達率50%以上を目指して政府の補助を強化。冷蔵技術など、とくに農業関連分野への支援を拡大させている。携帯電話メーカーへの支援を強化し、法人税を3年間は17.16%に下げ、関税は免徐。インド政府は、グローバルのM&Aについて6~12カ月間のキャッシュフローを支援し、ルクセンブルグの2倍にあたる0.46万ヘクタールの共用事業用地を提供する。またサプライチェーンの再構築を行う。オーストラリアのVirgin Atlantic航空買収に関する米Indigoへの支援など、インド政府はポストコロナに向けて長期的かつ戦略的対応を開始している。

 中国からインドへの工場移転にも力を入れており、ドイツの製靴メーカーVon Wellxが中国からウッタル・プラデーシュ州アグラへの工場移転を決定した。EUのなかでもっとも中国との経済関係が強かったドイツが、最近の香港問題、新疆ウイグル自治区での人権状況などを問題視。中国以外のアジアへの工場のシフトを真剣に検討している。その一例が、この独製靴メーカーのインドへの工場移転に表れているように見える。

 モディ政権は、インドを「New Economic superpower」(新しい経済大国)とすべく世界第6位の経済大国、さらに25年に世界第3位の消費市場に成長させることを目指している。インド市場は、25年までに642.54兆円に成長する機会があると予測し、家電市場は5.35兆円となることを見込んでいる。電気自動車(EV)、および部品の製造にも注力。コロナ後はGDP成長率5~6%を目標にしている。

 25年までに製造ハブの強化、107兆円の製造実績を目指す。とくにボーイングなどと提携し、防衛産業強化にも尽力するという。一方で、建設に関しては、22年までのスマートシティ建設を含め、インド3大市場の1つに育成する。そのために、インフラや物流施設の建設など157兆8,000億円もの投資計画を打ち出した。この投資の内訳は、中央政府39%、地方政府40%、民間21%を予定。PPPをさらに強化する。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

(後)

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