【ラスト50kmの攻防(12)】武雄温泉―長崎が22年秋開業 整備議論に「総選挙」も影響
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「昭和の妄想」批判に「議会軽視」と応酬
与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT) が24日開かれ、国交省は2012年6月に着工した九州新幹線長崎ルート・武雄温泉―長崎間が22年秋に開業すると報告した。
8日開会した9月定例佐賀県議会では、山口祥義知事が新鳥栖―武雄温泉間の環境アセスメントへの同意を拒み続けていた。国交省は、来年度予算案にアセス費用を概算要求しないと表明し、長崎、北陸、北海道3線の20年度建設費からの増額を与党PTに要望した。増額分は金額未定の「事項要求」。佐賀県がアセスに同意すれば費用を捻出できる。
山口知事が年末までにアセスに同意するかは置いて、武雄温泉―長崎間は2年後、JR佐世保線武雄温泉駅のホームで特急と新幹線を乗り換える「リレー方式」で開業する。
“先輩”の鹿児島ルートも、新八代―鹿児島中央間が04年3月に先行開業。11年3月の博多―鹿児島中央間の全線開業まで、新八代駅ホームでのリレーだった。乗り換え解消を訴える旅客の声が全線フル規格化を後押ししたが、それでもリレーは7年間続いた。
長崎ルートの利用客は、博多や新鳥栖で在来線に乗り換え、武雄温泉駅ホームで新幹線車両に移動。その後20分程度で長崎に到着する。新八代と異なるのは、武雄温泉は2度目の乗換駅になり、「快適な旅」の不快要因になりかねない。
この点も考慮して、与党の整備新幹線検討委は乗換不要のミニ新幹線かフル規格新幹線を選択肢とし、昨年8月には「フル規格が妥当」と結論。国交省に対し佐賀県、長崎県、JR九州と協議を急ぐよう指示した。
それから1年以上経った。一歩も譲らない山口知事に対し、18年12月の前回知事選で推薦した自民党佐賀県連は17日、国交省が提案する複数の整備方式に対応する環境アセスへの同意を初めて要請した。
県議会開会中、『日経ビジネス』が配信したネット記事で山口知事は、「新幹線を引いたら街が良くなるなんていうのは昭和の妄想」とこき下ろしていた。一般質問に立った木原奉文氏(自民)は、「議会の質問も始まっていないのに、こういうことを平気で言う。あまりに議会軽視」と記事を読み上げて追及した。
ただ、県連の要請文は「県民が幅広く議論できるよう、環境アセスメントの実施に同意し、複数の整備方式のメリット、デメリットなどを協議し、県の方向性を見出すよう要請する」と穏やかだ。県連の留守茂幸会長(県議)によると、在来線の上下分離が決まっている沿線市町が選挙区の県議や在来線協議が浮上する可能性がある駅舎所在地の町議らも役員におり、11人全員の同意を最優先した結果という。
背景にあるのは近づく総選挙。自民党は、17年10月の前回総選挙で佐賀県の衆院小選挙区を2議席とも落とした。安倍晋三前首相の後継総裁選挙で、党中央に先駆けて党員・党友の予備選実施を公表したのも、「党員の意見を広く反映させ、総選挙で頑張ってもらう」(留守会長)との判断からだった。
山口知事は17日、県庁で留守会長から手渡された要請文に目を落としながら、「佐賀県と県民の今と将来を考えて対応していきたい」と手短に述べ、アセスメントの同意には触れなかった。要請文を下敷きにして、県議会の自民党会派は公明党や民主党系会派などと共同で9月定例会閉会日の30日、山口知事に国交省との積極協議を求める決議を採択し議会の意思を伝える。
動き出したJR九州 協議の場を模索
その一方で「22年秋開業」が見通せたことで、協議の舞台に上がりそうなのがJR九州。同社の青柳俊彦社長は24日の記者会見で、「最終目標からすると道半ば。(新鳥栖―武雄温泉間)着工に向けて、国や佐賀県とぜひ協議したい」と表明。古宮洋二専務は23日の長崎市での講演会後、「私たちも佐賀県との協議の場をもてないかアプローチしている」と明かした。
新幹線の新規着工と並行在来線の経営分離は表裏の関係だ。JR九州が国交省も入った協議に参加すれば、新鳥栖―武雄温泉間のフル規格整備を想定し、佐賀県は並行在来線の認定とその取扱いを先行協議できる可能性が浮かぶ。
「やっとJRが動く。次はフル規格で建設した際の佐賀県の財政負担をどこまで軽くできるか。制度改正で対応できればいいのだが」。そう話す自民党政調会長代理の今村雅弘衆院議員は、県連役員と官邸や党役員との会談日程の調整を急ぐ。
年末の来年度予算案編成まで3カ月弱。与党の整備新幹線建設推進PTの座長は自民党の岸田文雄・前政調会長から細田博之・元幹事長に交代。初会合の後、細田座長は「全線開業できる状況になっていない」と指摘したうえで、「国交省と佐賀県の協議が続いており、その協議を待ちたい」と静観する構えだったという。
【南里 秀之】
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