中日自動車産業の格差 中国18社の利益がトヨタの40%にも満たない理由

 中国自動車部品企業の視察団が日本を訪れ、中日両国の自動車製造業の格差について講演を依頼された。

 日中両国の自動車製造業の差はどこにあるのでしょうか。この格差は、技術や発展経路だけでなく、両国の異なる思考様式や姿勢にも起因する。

中日自動車産業の異なる発展軌跡

イメージ    日本は約100年にわたり自動車産業を深く追求し、8大自動車メーカーが厳格で豊富な産業管理モデルを築き上げ、世界一の自動車王国として米国やドイツを凌駕した。一方、中国は1980年代以降、日本、ドイツ、米国などの企業との合弁を通じて技術と経験を蓄積し、とくに近年、新エネルギー車(NEV)の台頭により、世界の自動車製造業の新星として躍進した。

 日本の自動車メーカーは、経験豊富で慎重な「老練な職人」のようであり、中国のメーカーは大胆で前進を恐れない「若者」のようだ。日本企業は利益を重視し、収益性のない事業には手を出さないが、中国企業はコストを度外視し、競争を通じて勝者を目指す。この違いが、両国の自動車産業の発展軌跡を分けた。日本は着実な進歩と継続的な調整を重視し、持続可能な成長を追求する。一方、中国は熾烈な競争と大胆な投資で「勝者総取り」を目指す。 

 日本社会には「専門的なことは専門家に任せる」という暗黙のルールがある。対照的に、中国社会では「君にできるなら、なぜ俺にできない?」という考え方が根強い。この思考の違いが、両国の自動車産業の現状を形成した。新エネルギー車ブームの際、日本ではどの企業も投資会社も自動車製造に参入しなかった。「どんなに金を投じても、老舗メーカーの技術、設備、管理には敵わない」と考えるからだ。一方、中国では不動産、電化製品、物流、ITなど多様な企業が「車なんて4つの車輪とソファ、バッテリーと派手なシステムがあればいい」と考え、資本の後押しを受け、百家争鳴の勢いで急成長した。

 この中国の「果敢な挑戦」と「無畏の精神」が、新たな「自動車王国」を短期間で築き、自動車製造業を中国製造業の柱とした。これは100年来の「実業による国救い」の壮挙であり、「カーブでの追い越し」の成功例として、日本も追随できないほどの成果を上げた。しかし、「カーブでの追い越し」にはリスクと代償がともない、成功の半分は事故にもつながる。

トヨタの圧倒的な利益と中国の課題

 3年前、中国主要自動車メーカーの純利益合計はトヨタ自動車1社の70%にも満たなかった。2025年貝殻財経年会で、元重慶市長の黄奇帆氏は、中国自動車産業の生産額利益率がわずか55%で、年間3,000万台の総利益がトヨタの900万台におよばないと指摘した。

 2024年度のデータによると、トヨタの2024年度(2024年4月~2025年3月)の純利益は4兆765億円(約2,337億人民元)、前年比3.6%減ながら依然として巨額だ。一方、中国の18の上場乗用車企業のうち、13社の利益合計は1,226億元(約2兆5,245億円)、5社の損失332億元を差し引くと、純利益は900億元(約1兆8,520億円)未満で、トヨタの約38%にすぎない。単車利益で見ると、トヨタは世界販売1,040万台で単車利益約2.29万元(約47万円)、中国のトップ企業BYDは427万台で0.94万元(約19万円)と、トヨタの半分以下だ。

 中国国家統計局によると、2025年前5カ月、自動車製造業の収入は7.1%増だが、利益は11.9%減少し、利益率は4.3%に低下。2022年の5.7%からさらに悪化した。なぜトヨタは世界で莫大な利益を上げ、中国企業は「売れても儲からない」状況に陥るのか。

一、価格競争による内巻き

 中国は世界最大の自動車市場だが、競争も最も激しい。市場シェア獲得のため、企業は数万元の値下げを繰り返し、2024年上半期の平均利益率は4.9%と、工業平均5.5%を下回る。一部ブランドは「赤字覚悟の販売」で注目を集め、「増収減益」の異常事態に陥る。トヨタも価格競争を経験したが、早期に低価格市場から脱却し、中高級車とハイブリッド技術に注力。2024年、ハイブリッド車販売は24.5%増で、利益の柱となった。日本企業は「品質で勝つ」戦略でブランド価値と信頼を築き、単車利益は中国を大きく上回る。

二、ブランド価値とハイエンド化の不足

 ブランドは利益の増幅器だ。トヨタの「TOYOTA」は省エネ、耐久性、高いリセールバリューを意味し、消費者はそのプレミアムを支払う。中国企業は「コストパフォーマンス」を重視し、高端ブランドの構築はまだ初期段階。BYDは新エネルギー車技術で先行するが、グローバル市場では中低価格帯が中心で、トヨタのレクサスなどの高端ブランドに対抗できない。研究開発投資も、中国企業は平均1.5%に対し、国際大手は4.3%。トヨタは年間約1.2兆円を電動化、智能化、自動運転に投じ、市場の最前線を維持。中国企業はブランド高端化と技術革新にさらなる努力が必要だ。

三、サプライチェーンとコスト管理の格差

 日本の「リーン生産」は世界の模範。トヨタのTPS(トヨタ生産方式)は、無駄の排除、継続的改善、人間中心の生産を柱とし、「ジャストインタイム」と「自働化」で効率、コスト、品質を最適化。サプライヤーとの 「共生」関係でコストと品質を両立する。サプライヤーは設計段階から参加し、生産を最適化。中国企業はサプライチェーン管理が粗雑で、原材料価格の変動や物流コストの高騰が課題。2024年、バッテリー材料価格の上昇が利益を圧迫。総負債は1兆元(約20兆円)近くに達し、利益をさらに圧縮。トヨタも高負債だが、グローバル展開でリスクを分散し、収益は中国7大企業の合計の1倍、利益は3倍だ。

四、市場構造とグローバル化の差

 トヨタの利益は北米、欧州、アジア市場からバランスよく生まれる。中国企業は国内市場に依存し、輸出は500万台を突破したが、中低価格帯が中心で利益率は低い。トヨタのグローバルブランド認知度とアフターサービス網が安定したキャッシュフローを生む。ハイブリッドと燃油車の多様な製品ラインで、電動化リスクを回避。中国企業は新エネルギー車で先行するが、燃油車市場の競争力は低く、製品構造の単一性が利益を制限する。

 トヨタのサプライヤーは単なる「値下げ対象」ではなく、戦略的パートナーとしてプロセス最適化と利益共有を実現。中国企業は規模が大きいが、サプライチェーンの断片化、原材料変動、重資産投資が利益を侵食する。

トヨタの成功に学ぶ4つのノウハウ

 リーン生産とコスト管理:TPSによりトヨタは生産効率で圧倒。部品の汎用性が高く、柔軟性も強い。チップ不足やパンデミックでも迅速に調整し、収益を維持。

 技術主導と着実な進歩:電動車に急がず、ハイブリッド技術で利益を蓄積し、未来の変革に備える。2024年、ハイブリッド車は世界販売の40%を占め、利益の柱に。

 ブランド価値とグローバル展開:トヨタのブランド価値は世界トップクラス。レクサスなどの高端ブランドで利益率を向上。グローバル戦略で市場変動に対応。

 長期主義と継続的改善:「改善に終わりはない」がトヨタの哲学。短期的な販売量より、製品とサービスの継続的改善で顧客の信頼を獲得。

 これらのノウハウは、中国企業にとって目標であり、鏡でもある。中国が「カーブでの追い越し」を継続しつつ、持続可能な成長を実現するには、トヨタの精益生産、技術革新、グローバル戦略を参考に、ブランド価値とサプライチェーン効率の向上に注力する必要がある。


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