生死の境界線(1)肺癌宣告
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筆者は毎年4月、適正健康検査(1日ドック)を受けてきた。かれこれ20年になるであろう。これまで致命的な勧告を受けたことはなかった。今年は新型コロナウイルスのため定期検査が例年より遅くなり、7月に行った。7月16日のことである。夕方、検査結果に関してドック担当の医師から総評を聞く。「どうも異常な影が肺にありますね。再検査が必要でしょう」との警告を発された。2018年にも再検査の必要ありという指示・勧告を受けていたことを思い出した。
「それでは速やかな再診が重要です」と言われたため、一番早いところで盆明けの8月17日に再検査をすることを決定した。8月17日の再検査の重点項目は肺の検査である。検査の結果のレントゲンを専門医師が見立てた。「この左上肺部の影は小さいですが、恐らくは初期の癌でしょう。ガラス状に17ミリ程度あります。その下方に5ミリの充実性腫瘍が横たわっている構造です。進行程度はステージワン・A1でしょう」と専門用語が次から次へ飛んでくる。
「ステージワン・A1とは一体何ですか」と尋ねた。「ステージ1から4まであり、その4段階がまたそれぞれに4段階に区分されるのです。ステージワン・A1は一番初期の段階を指します。肺癌は大まかに分けますと4種類ありますが、今回は進行速度の遅い癌であると見立てています。よく調べますが、現在の段階で転移の可能性は低いとみて間違いないでしょう。もちろん、次回は転移可能性の有無を調べる検査をします」と冷酷な医者は死刑宣告を発した。「肺癌なんて信じられない」と核心していた筆者は死刑宣告と受け止めたのだ。
摘出手術を即決
「煙草を吸ったこともない者でも肺癌にかかることがあるのですか?」と質問した。「禁煙と肺癌には因果関係まったくはありません。喫煙愛好者が肺癌になる可能性が高いというだけの話です。非喫煙の貴方の場合にはさまざまな原因が推測できますが、この程度の検査データで結論を下すのは無理です」と鬼の医者の回答はまさしく鬼。こちらとしては藁にも縋る思いで「肺癌の可能性は70%ですかね」との言葉を聞きたかったのだが・・・。
2018年検査のフィルムを見ながら冷酷な医者は「2年前よりも2ミリ大きくなっていますが、進行の速度が遅いのはせめてもの救いですな」と他人事のように語る。「では2年前に手術していた方が賢明だったのですか!」とムキになって抗弁した。「いやー、2年前の大きさでは手術する意味がありません。ところで手術日を9月23日に設定しましょう。今後決めるのは患者の貴方です。次回は転移の怖れのある箇所の診査をします。肺癌の転移先の高い箇所は骨と頭脳・頭です」と、事は淡々かつ迅速に進む。
浅はかな知識しかない筆者は心理的に追い込まれていく。「肺の摘出で諸悪の根幹を駆除できるのですか!抗生物質を活用する治療の必要はないのですか?」と質問を投げかけた。「まったく必要はないと見立てています。現段階でしたら摘出で肺癌対策は完了します」と断言する。「おや、この鬼医者には信頼できるところがある。よし!摘出手術を行うことを決めよう」と覚悟した。
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