【ラスト50kmの攻防(14)】フル規格開業のメリットは長崎県、費用負担は佐賀県 予算編成“終着駅”はどこに
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新鳥栖―武雄温泉間フル規格整備に向け、財源措置を要請
九州新幹線長崎ルートの未着工区間、新鳥栖―武雄温泉間の整備方式について、自民党佐賀県連の留守茂幸会長ら役員が10月5日から2日間上京し、整備3線(北海道、北陸、長崎ルート)の予算配分に力を持つ与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)や国交省などを回って会談。同区間を標準軌新線(フル規格)で建設した際の、佐賀県の財政負担軽減など支援策を詰めていくことで一致した。
同PTのワーキングチーム(下部組織)の与党検討委員会は近く会合を開き、佐賀県連の要望を確認。フル規格整備を想定し、佐賀県の財政負担を軽くする具体的な方法の検討を国交省に指示するとみられる。
整備新幹線の工事費負担は「全国新幹線鉄道整備法」(全幹法)で次のように定められている。
まず13条では、既存新幹線を経営するJR各社が国に支払う新幹線の貸付料を除き、国と都道府県が負担。同法施行令によると、負担割合は国3分の2、都道府県3分の1。次に13条2項、新幹線建設の受益市町村には、都道府県はその負担金の一部を負担させることが可能。2022年秋開業の武雄温泉―長崎間では、佐賀県負担のうち駅舎などの建設費の一部について10分の1を、駅舎所在地の武雄市と嬉野市が負担する。13条の2は、工事費を負担する地方公共団体(都道府県と市区町村)の財政に支障を来さないよう、国に必要な財源措置を求めている。
与党PTに対し、自民党佐賀県連の役員は、「(新鳥栖―武雄温泉間をフル規格で整備すると)佐賀県は財政に支障が生じるので工事に必要な財源措置を講じてほしい」と訴えたわけだ。
昨年8月、与党検討委は「フル規格が妥当」との結論をまとめた。以来1年以上にわたり、佐賀県連は県議会などを通じて、山口祥義知事の説得を試みてきた。国交省の19年3月の試算では、同区間のフル規格工事費は6,200億円。佐賀県の実質負担は660億円とされる。ただ山口知事は国交省との協議を拒み、新しい提案でもない限り、膠着状態は打開出来そうにない。
「新幹線が博多から長崎までフル規格で全線開業してメリットが大きいのは長崎県。ところが、新鳥栖―武雄温泉は全線が佐賀県区間。今の法体系なら660億円を佐賀県がそっくりかぶる。不公平だ」。佐賀県連の役員は、そう不満を漏らす。
「佐賀県に新幹線を通さないという結論はない」自民党・細田博之座長
5日、衆議院第二議員会館。与党PTの細田博之座長(衆院島根1区)は佐賀県連に対して、「必ず案をつくって(フリーゲージトレインに)代用しないといけない。これで終わりでは新幹線の構想自体が壊れる。12月末の来年度予算案の決定までに何とか、佐賀県の問題と北海道、北陸をきちんと整理したい」と踏み込んで回答した。
この〈佐賀県の問題〉と 北海道新幹線や北陸新幹線を容易に整理できないところが、国交省を悩ませているのは想像に難くない。仮に全幹法を改正して国と都道府県の工事費の負担割合を変更すれば、〈佐賀県の問題〉(新鳥栖―武雄温泉間)では済まず、北海道新幹線や北陸新幹線の工事費負担に波及する。
都道府県の負担を減らす以上、関係JR各社から徴収する既存新幹線の貸付料を引き上げるか、国の公共事業関係費の持ち出しを増やすか、双方を組み合わせるか。今の整備スキームを前提にすると、大掛かりな作業が待ち受ける。
翌6日、留守会長らは中央合同庁舎3号館に水嶋智・国交省官房長らを訪ねた。水嶋氏の前職は鉄道局長。山口知事と直接話し合うために何度も佐賀県庁に電話を入れ、知事が上京した際は他省庁の玄関前にまで足を運んだが、拒まれ続けた。
この日の面会で留守会長は水嶋官房長に頭を下げ、財政負担の軽減などを要望した。会談後、水嶋官房長は囲み取材に応じ、「フル規格整備に向けた具体的な話し合いができるようになれば前進だろうが、山口知事から『今はまだそういう段階じゃない』と言われそうだ。ジレンマがある」と明かした。
国交省と佐賀県は10月中旬、佐賀県庁で「幅広い協議」を開催。幹線鉄道課長と地域交流部長が6月、7月に続き、3回目の事務レベルの話し合いをする予定だ。
「新鳥栖―武雄温泉間をフル規格で整備すればどうなるかは、佐賀県民も知りたい情報ではないのか」。そう指摘する水嶋官房長に呼応するかのように、嬉野市議会が5日、国交省が佐賀県に提案した複数の整備方式に対応する環境アセスへの同意を求める意見書を全会一致で可決、山口知事への提出を決めた。
「佐賀県に新幹線を通さないという結論はない」。与党PTの細田座長は留守会長らにそう言い切ったという。年末の来年度予算案編成に向け、“終着駅”が見通せない攻防が続く。
【南里 秀之】
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