史上最悪の経済情勢下で進むアメリカの大統領選挙(4)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
世界が注目した第1回目のトランプ対バイデン両大統領候補者によるテレビ討論は「アメリカ史上最悪!」とまで揶揄された。まさにそのハチャメチャぶりにはアメリカの有権者のみならず、アメリカの行方に関心を寄せる世界の人々が驚いた。アメリカのメディアでは「先に菅総理が選ばれた自民党の総裁選での討論会のほうがよっぽどましだった。アメリカは日本に学ぶべきだ」といった論評まで登場する有り様だった。
パールハーバーを再現?
その背景には、トランプが不動産やカジノ・ビジネスに邁進していたころからロシアのマフィアとのつながりが深く、プーチンとは一蓮托生の関係にあったことが指摘されている。問題は、現在進行中の大統領選挙においても、ロシアの介入が継続していることである。バイデン候補の息子ハンターが絡んだウクライナでの利権疑惑についても、いまだにロシアによる情報操作が続いているからだ。どう見ても、民主、共和両党にとって民主的な選挙とは言い難い。
事程左様に、ロシアはトランプへの肩入れを続けているのである。とはいえ、ロシア頼みでは不安ということもあり、トランプ大統領は密かに再選に向けて独自の準備も進めているようだ。先のテレビ討論では終了後に自ら「勝利宣言」を下したが、直後の世論調査ではバイデン候補が優位を保っている。この流れを変えるにはあと2回のテレビ討論では心もとないと感じたようだ。
そこで、前々から俎上に上がっているのが「オクトーバー・サプライズ」である。何かといえば、11月の選挙直前の10月にアメリカ国民を味方につけるために危機を演出するという作戦である。過去の例からいえば、「戦時中の現職大統領は必ず再選をはたしている」。
そうした先例にちなみ、「パールハーバーを再現する」というわけだ。もちろん、日本がアメリカを攻撃するようなことはあり得ない。その悪役を担えるのは「北朝鮮、中国、イラン」のいずれかだろう。現時点でその可能性がもっとも高いのは「イラン」と目されている。アメリカのメディアはCIAや軍事筋からの情報として「イランがアメリカの空母を攻撃する準備を進めている」とし、その証拠として「アメリカの空母に見立てた木製の疑似空母へのミサイル攻撃を繰り返している模様」と称する映像を流している。
「アメリカ・ファースト」ならぬ「トランプ・ファースト」
また、コロナの影響で11月の選挙では郵送による投票を認める州が増えてきており、これに猛反対しているのがトランプ大統領である。郵便投票では不正や結果判定の遅延による混乱が避けられないとの理由で、「郵便投票を違法にする」と息巻いている。それどころか、「もし郵便投票が実施されても、自分はその結果を認めない。どのような結果になってもホワイトハウスに居座る」とまで、大統領の座にこだわる執念ぶりである。
何のことはない、ホワイトハウスを去れば、韓国と同じで、お縄になるという大統領の運命が待っていると自覚しているからであろう。マンハッタンの地方検事局ではトランプ一家の脱税疑惑やドイツ銀行を巻き込んでの不正融資問題にメスを入れ、捜査も最終段階にきている模様だ。娘婿のクシュナー氏の関与も前々から取り沙汰されており、不名誉な結末が待ち構えているに違いない。
そうした事態を回避するには、ホワイトハウスに居座り、免責特権を維持するしか生き残る道はないと思われる。「自分が再選されれば、次は娘か娘婿に大統領の座を譲れば良い」との心づもりのようだ。これでは「アメリカ・ファースト」ではなく、単なる「トランプ・ファースト」に他ならない。
いずれにしても、こんな有り様では、アメリカの命運は尽きたと言わざるを得ない。かつて世界に轟いたアメリカの威光は見る影もない。残念ながら、そんなアメリカとの同盟関係に外交や安全保障を全面的に委ねているのが今の日本政府である。安倍首相は体調不良を理由に辞任したが、後任となった菅義偉新首相にはアメリカの現実を冷静に見極め、その二の舞を踏むことのないようにしてもらいたい。
かつての「世界の警察官」アメリカはもはや存在しないのである。自国内の暴動や山火事すら治められない。世界各地で紛争や戦争に介入してきたが、アフガニスタンにせよシリアにせよ、成功したケースは皆無だ。そうしたアメリカの凋落を象徴的に白日の下に示したのがトランプ対バイデンのテレビ討論会だった。10月中にあと2回行われる予定の討論会で、どのような劇的な変化が見られるのか注目したい。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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