2024年12月25日( 水 )

生死の境界線(5)早期退院には注意が必要

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左肺の半分である上葉切除で、早期退院の「落とし穴注意」勧告

 9月27日(日)は、運動の代わりとして病棟内をまわった。手術では、図のように左脇腹の後ろを18ミリほど切った上に、肺の4分の1を摘出したのである。本人にとって大手術である。そのような状況にも関わらず、わずか6泊の入院で退院できることに喜び、感謝の気持ちを強く抱きながらも同時に不安も感じていた。外科手術の進歩に対する驚異の念をもちながらも、「こんなに早く退院して大丈夫なのか」という複雑な感情が交錯していた。

 早く退院できることになったことを連絡した友人からすぐに貴重な助言メールが届いた。「先ほどは連絡をありがとうございました。最近の外科手術の進歩で確かに退院が早くなったことは事実です。ただ退院が早くとも、静養が必要だと感じます。昔は入院が長かったため、退院後はすぐに元の生活に戻ることが可能でしたが、現在の早期退院では体調の整備がなされていません。たくさん動くと、細胞の修復のために体の全エネルギーが患部に集中するのを妨げますから、静養してください」。この友人の的確な助言には涙が出た。

 9月28日午前10時半に退院の手続きを終えて、病院を後にした。この夕方の家族の会食で、病院で妻と息子は摘出した肺の一部を見せられたという話を聞いた。切除された部分が真っ黒だったため、医者から「患者さんはヘビースモーカーだったのですね」との質問を受けたが「1本も吸っていません」と答えたという。手術は多少難航したとのことであり、癌の根っこが肺壁にこびりついていて、削り落とすのに時間がかかったため、通常よりも手術に1時間長く時間を要したと聞いた。

日本の医療制度の充実にただ感謝の思い

 1974年からアメリカ(ロサンゼルス)に渡り夫婦で定住しているCは、二重国籍をもっている。最初はサラリーマンとして赴任し、その後に事業を立ち上げて売上高500億円規模の企業のオーナーになっている。金にも困らず、気に入った友人らと開発ビジネスに勤しんでいたが2年前に肺癌を患った。Cはアメリカでの最初の治療・手術代として、手術前に1,200万円という驚くべき金額を請求された。Cはその手術を受けるまでは任意の健康保険の後払いで対応できると考えていたが、それまで健康で病院とはあまり縁がなかったため、事前の支払いが必要であると知らなかったのだ。

 事業家Cにしてみれば1,200万円の立替えは容易であったとはいえ、この事前請求金を払わなければ、手術を受けることはできなかった。手術は無事に終了し、立替えた費用は後日、保険会社から入金されることとなった。Cはこの苦い経験からアメリカ(ロサンゼルス)永住を放棄し、「日本で最終人生を送りたい」と決断した。理由は、今後のアメリカでの老後の生活において医療面での不安が募ったからである。

 Cは「やはり日本は安全で安心」と本音を語る。続けてアメリカでの新型コロナウイルス感染に関し、「一般的に底辺と言われる市民らは、コロナにかかっても病院治療を受けられない人々が数多い。コロナ死亡者は20万人と発表されているが、実数は30万人を超えているのではないか」と推測する。

 この話を8月末に耳にしたばかりだったため、「一体、金額はいくらになるのか!」と関心をもって、退院する9月28日、支払い窓口に立った。診療費明細を見ると、入院の部屋代を除き、診療負担金(他業種でいう売上に該当)50万9,670円、給食負担金6,900円などの項目が続き、最終的な自己支払分は26万8,070円だった。アメリカと比較すれば「安い」と叫び、日本の医療制度にひれ伏す思いでただ感謝した。

(つづく)

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