【凡学一生の優しい法律学】日本学術会議委員任命拒否事件(5)(後)
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結語(つづき)
成立当初の意義
法律の成立当初の意義を、講学上は「立法者意思」という。成立当初の意義は一貫して遵守されるべきであり、この遵守こそ法的安定をもたらす法治主義の基本である。実質的な立法者でもある内閣の内閣法制局の解釈の変更こそ事実上の立法行為であるため、国会の権能を侵害する重大な違法行為である。
新しい「解釈」が新たな立法行為・立法効果となることは法律学では常識に類する。これは憲法違反のレベルに相当する違法行為である。しかも内閣法制局の解釈の変更は「客観的事実」問題であり、議論で確定するものでもない。このことの有無を議論すること自体が、無用の議論である。
基本的には内閣法制局つまり内閣が勝手に法律の公権解釈(※)をすることはできない。これが三権分立の最低限の原則である。従って内閣が勝手に法令の解釈を変更したならば、それは明白な違法行為であるため、野党国会議員にはこのことに対して適切な対応が求められる。この適切な対応が何かを知らず、それについて研究もしないために、万年「野党の負け犬の遠吠え」と揶揄される結果となっている。
議員内閣制であるため、国会には内閣を抑制する機能は事実上存在しない。内閣不信任案制度など画餅の典型例である。国会の支配政党が内閣を組織するため、その国会が内閣不信任案を可決するはずもない。では、少数野党議員は何をすればよいか。それは辞任をして、補欠議員選挙で内閣の違法行為を国民に直接訴えることである。
本事件では実際の内閣総理大臣の違法行為によって推薦権を侵害された団体として学術会議が存在するため、学術会議は団体として総理大臣の違法行為を司法権に訴えて是正を求めることができる。これが三権分立、権力分立の真の意味である。具体的には、法律に基づく総理大臣の行為は基本的に行政処分であるため、その違法性を問う手続がすなわち行政訴訟である。学術会議や被推薦人6人には法律で保護すべき利益があることは明白であるため、当事者適格に問題はない。
問題は、野党議員ないし国会議員が内閣の違法行為を理由にその是正を求めて提訴しうるか、当事者適格を有するかということである。このような問題を野党議員は検討も研究もしたことがないだろうが、国民の負託に応えるためにも挑戦すべきである。辞任して補欠選挙で国民に訴える勇気がなければ、議員の身分を保有したままできる法的是正手段は提訴しかない。内閣の違法行為を被害者のみが是正できるとする国家制度がおかしいとするリーガルマインドが、国会議員に必要である。単純な多数決支配の無法国家から脱却することが日本政治の課題である。
追補
橋下弁護士の詭弁により、今回の総理大臣の違法行為は、その理由付記違反にあるかのごとく誘導され、その誘導にのって、野党議員はさかんに理由の開示を求めている。しかし、人事に関する決定については、宮本判事補再任拒否事件で最高裁自体が理由の開示の義務はないとする判例を出しており、政府の答弁はこの判例の繰り返しになっている。橋下氏の見事な誘導によって、野党議員は「負け戦」を強いられている。
問題は「推薦無視」の理由であって、ありもしない総理大臣の「推薦拒否権」の理由であり、純然たる人事採用権、任命権に基づく不採用に関する理由ではない。つまり、総理大臣に学術会議会員について純然たる人事採用権、任命権があるか否かという前提論に関する問題である。
無関係の土俵上で相撲をとらされていることさえ自覚していない野党国会議員には、国民はやはり絶望するだろう。
※:これは第一義には国会の権能であり、個別事例においてそれぞれの国権が国会の示した立法者意思に従って法を執行し、内閣に独自の解釈権など存在しないため、内閣法制局自体が憲法違反の制度といえる。 ^
(つづく)
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