「デジタル庁が目指すべき“人間中心”のAI戦略とサイバーテロ対策」(4)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
アメリカでは大統領選挙が終盤を迎えている。近年、毎回のように話題になるのは、外部勢力の介入である。前回の2016年には、ロシアのサイバー部隊が暗躍し、民主党のヒラリー・クリントン陣営から情報を盗み、トランプ候補に有利となる情報操作を展開したという「ロシア介入疑惑」が沸き起こった。今回もロシアに限らず、中国や北朝鮮までもがネット上でさまざまな偽情報を流しているようだ。
「弱み」を「強みに」
マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は「インターネット上の仮想国家」の出現を予測している。そして、地上にも「リベルランド」と銘打った仮想国家がヨーロッパに誕生した。世界のどこに生まれ、どこで生活していようが、希望すれば、犯罪歴がないことが証明されれば、税金も差別もない自由な仮想国家の市民権が得られる。すでに日本出身の「リベルランド国民」も誕生している。現時点では国連への加盟は承認されていないが、過去には想像できなかった方法で新たな国が誕生していることは注目に値しよう。
そうした新たな展開を可能にしているのがAIの技術革新に他ならない。個人も企業もあらゆる組織が能力のネットワーク化とコモディティー化にしのぎを削るようになった。その結果、AIの能力向上と社会のスマート化が飛躍的に伸びている。
たとえば、そうしたAIと人間との連携プレーはサイバー空間に止まらず、ロボットによってフィジカル空間にも拡大する傾向が顕著になっている。自動走行車はいうにおよばず、ヘルスケアの分野では、未病、予防に関連する技術革新はすさまじく、健康寿命は延びる一方で、「人生100年時代」の到来は既定路線といえるだろう。
また、農業・食品の分野でも、AIによる遠隔監視・管理、農業用ロボット、自動走行ドローンなどが実用化されることによって、サプライチェーンの最適化も加速している。さらには、国境を越えた追跡、環境負荷対応、水処理、廃棄物処理といった分野でもブロックチェーン技術の活用によって革新的なサービスが現実のものとなってきた。
一方、アメリカのGAFAや中国のBATなどプラットフォーマー企業の台頭も目覚ましい。とはいえ、個人情報の扱いや独占企業体質のもたらす弊害も無視できない。そうした懸念や課題を乗り越えるため、日本は活用目的に応じたデータの共有手法で新たな価値を創出する動きを模索せねばならない。
具体的には、防災・減災、ヘルスケアなど公共性の高い分野から始め、データ提供者への価値還元の仕組みづくりも目指すべきである。菅総理の下、老朽化が進む全国の道路やトンネルなどの点検修理や工事履歴をデータ化し、「インフラ台帳」として整備する案が検討されている。さらにはAIを活用し、維持管理を効率化すれば、管轄する地方自治体のコスト削減やサービス向上に役立つ。こうした手法はデータの囲い込みによる利益追求型アプローチとは一線を画すことにつながり、日本式デジタル戦略といえるだろう。
その流れのなかで、話題沸騰気味のブロックチェーン技術(分散台帳技術)の活用はどこまで進むのだろうか。経済産業省の試算によれば、その市場規模は67兆円。暗号通貨から信用創出の新形態へと応用範囲は広がりを見せている。トークン・エコノミー、追跡可能性の保証されたグローバル契約・決済システム、セキュリティの確保、スマート・エネルギー管理など、新たなビジネスチャンス到来への期待は高まる一方である。ブロックチェーン技術の活用によって、日本は「弱み」を「強み」に変えることが可能になるに違いない。
とはいえ、「人間本来の能力の再発見」にこそ日本的なAI戦略の機軸を置くべきではないだろうか。なぜなら、AIにすべてが代替されるわけではないからだ。一種の「AI万能ブーム」が世界を席巻しているかのように見受けられるが、過度な期待は命取りになりかねない。
発想を変えれば、「Google全盛時代の終わり」の近いことも視野に置く必要があるだろう。ビッグデータで解析し、次の一手を見出すのは、あまりにも当たり前過ぎる思考方法と思われる。データが大量にあれば、AIの機会学習の精度が高まることは想像に難くない。しかし、フェイクニュースのようなウソのデータが大量に出回るような状況下では、データの真贋を見分ける能力も欠かせない。
今後は、量は少なくとも、正確なデータを基に、いかに効率的な学習を加速させるかが問われるはずだ。そのような問題意識から、数少ない「スモールデータ」で学習効果や未来予測を高めることを目指すのが、日本の革新知能統合研究の真骨頂である。菅総理の進める「データ戦略」にも、そうした発想を取り入れてもらいたいものだ。
大切なことは、人間本来の隠された、そして未開発の能力をいかに引き出すかに焦点をあてること。無限の英知は60兆を超える人間の細胞に宿っているはずだ。過去を知り、未来を見通す素材もそこに眠っている。そのパワーをほとんど活かさず、Google式のビッグデータに踊らされているのが、今の我々の問題点ではなかろうか。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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