香港ファンドが東京ドームとの勝負開始~狙いは、ボールパーク化と命名権か(後)
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プロ野球の“聖地”である東京ドームと、その筆頭株主である香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントの対立が先鋭化している。オアシスは(株)東京ドームの社長ら3人の取締役を解任すべく、臨時株主総会の招集を請求した。
読売ジャイアンツという人気球団を抱えているのに、まったく生かせていない東京ドームに対し、オアシスにはどのような狙いがあるのだろうか。巨人の築地新球場計画が頓挫した
東京ドームは1988年、日本国内で最初のドーム球場として誕生した。競輪場跡地に東京ドームが建設され、オールドファンにはなつかしい後楽園球場はお役目御免となり解体された。東京ドームはかつて最先端をいくドーム球場だったが、当初から耐用年数は約30年といわれ、すでに賞味期限が切れているため、巨人の本拠地問題は長らく懸案事項となっていた。
もっとも現実味のある候補地として浮上したのが、東京中央卸売場の豊洲移転による跡地を利用した築地新球場計画だった。銀座から徒歩圏内にあり、東京湾岸という絶好の場所だ。
加えて、親会社の読売新聞社にとっての最大の魅力は、築地市場が最大のライバル、朝日新聞の東京本社の目の前にあること。そこに読売グループの象徴である巨人の本拠地球場を建てるということは、朝日の鼻をあかす快挙であり、計画がきわめて具体的に進んでいたという。
しかし、2016年に小池百合子東京都知事が就任して、その野望を打ち砕いた。小池知事は築地市場跡地には「食のテーマ―パークにする」計画を掲げたため、跡地問題は振り出しに戻った。時間のみが過ぎて行くなかで、今回の新型コロナウイルスの問題が起きた。
東京都はコロナ対策が最優先課題で、球場建設に関わっている余裕がなくなり、巨人の築地新球場建設計画は頓挫した。
東京ドームは100億円かけて大改修
東京ドームは7月20日、「世界トップレベルの清潔・安全・快適なスタジアムを目指す」として、約100億円をかけた大改修を行うと発表した。巨人、読売新聞、東京ドームの3社が集結した大々的なプロジェクトだ。カープの本拠地マツダスタジアム(総工費が約150億円)がもう1つできるほどの巨額な改修費だ。
23年開幕に向けて、バックスクリーンのメインビジョンを現行面積の約3.6倍に拡大し、国内最大級のものにリニューアル。加えて、利便性向上とウイルス対策のため、22年には球場内の完全キャッシュレス化を目指し、内野席にスイートルーム新設なども行う。
しかし、この計画が発表されると、首を傾げる向きが多かった。エンタメ空間としてはいずれも二番煎じ。ボールパークを目指す日本ハムの新本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」や、野球ファンのみならず多くの市民が楽しめる横浜DeNAベイスターズの本拠地横浜スタジアムのような斬新さがない。
夢の新球場建設ではなく、改修化という現実路線を選択せざるをえなかったため、資金をかける割にはインパクトが出なかった。オアシスがこの改修計画に対して噛みつき、「現経営陣が示した改善策は小規模すぎる」と切り捨てた。
オアシスが求めているのは、エンターテイメントとしても楽しめるアメリカ型のボールパークの建設であることはいうまでもないだろう。
ネーミングライツ(命名権)がスポーツビジネスの潮流
スポーツビジネスの大きな潮流に、ネーミングライツがある。企業がお金を払うことでスタジアムなどの命名権を取得することをいう。
福岡ソフトバンクホークスの本拠地であるドーム球場名は、今シーズンからPayPay(株)によるネーミングライツ(命名権)の取得により「福岡PayPayドーム(略称PayPayドーム)」となった。
ダイエーホークス時代の本拠地として1993年にオープンした「福岡ドーム」は、その後、2005年にヤフー(株)が命名権を取得し、「福岡Yahoo!JAPANドーム(ヤフードーム)」に変更。13年からは「福岡ヤフオク!ドーム(ヤフオクドーム)」として親しまれてきた。球場名の変更は、今回の3度目となる。
プロ野球の一軍では、パ・リーグの5球団(ソフトバンク、楽天、ロッテ、西武、オリックス)と、セ・リーグの1球団(広島)の本拠地がネーミングライツを導入している。
パ・リーグはネーミングライツに積極的だ。北海道日本ハムファイターズが23年に開業を予定している新球場の命名権は、中部電力グループで不動産開発を手がける(株)日本エスコンが取得した。新球場名は「エスコンフィールドHOKKAIDO」。契約金額は、年間5億円を超える過去最高額だという。また、10年以上の長期契約になる。
世界に目を移すと、驚嘆するほどの多額の金額がネーミングライツに支払われている。昨年オープンした、イングランドプロサッカーリーグのトッテナムの新本拠地のネーミングライツ取得に、世界最大のEC企業アマゾンが名乗り上げた。10年で総額337億円の大型契約を結ぶ可能性が浮上していると海外メディアが報じている。
ネーミングライツは巨額なカネを生むにもかかわらず、命名権の導入に不熱心であるのがセ・リーグの球団である。
ボールパークとネーミングライツというスポーツ界の2大潮流に、東京ドームが背を向けていることが、投資ファンドのオアシスには理解できない。そのため、経営陣を一掃してボールパークを新設し、そのネーミングライツで資金をつくれと迫っているのである。
来年の東京ドームの株主総会はどのような修羅場になるか。プロ野球ファンは固唾を呑んで見守っている。
(了)
【森村 和男】
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