負けを認めないトランプ大統領に見る精神的若さの可能性と限界(3)
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2020年11月27日付の記事を紹介する。
しかも、そんな“アンチ・エイジング社会”アメリカで今、新たな進化が見られるようになった。何かといえば、「リバース・エイジング」という発想法である。これは年を取ることをストップさせようとするのではなく、「自らの年齢を20歳ほど若返らせる」ことを目標としている。
そのためには「本人の意識に働きかけることが何よりも重要」としており、表面的にシミやしわを取り除くとかホルモン注射によって肌の張りを取り戻すとかといったアプローチとは一線を画すもの。この若返り運動の提唱者はハーバード大学で女性初の心理学教授となったエレン・ランガー教授である。筆者は、アメリカ留学中に彼女の研究に触れる機会があり、大いに驚いた。
曰く「若返りのためには医師に頼る必要はない」ということ。アメリカの国家財政の重荷になっている社会保険費を減らすためにも、75歳の高齢者が55歳まで若返ってくれれば、大きなメリットが生じるというわけだ。しかもその方法は極めて簡単で、1人ひとりの生理学的な体内時計を20年前に巻き戻すというのである。
同教授によれば、「リバース・エイジングは決してSFの世界の話ではない」とのこと。長年にわたる実験、研究の成果を基に彼女は1つの結論を導き出した。それは「現在の医学においては、病気を特定したり、その治療法を提供したりはできるが、その応用効果に関しては保証の限りではない。なぜなら、患者1人ひとりの置かれている状況は千差万別で、万人に共通する薬や治療法は存在しないから」ということに尽きる。
要は、患者1人ひとりが自分の健康状態や精神、肉体の状況に関しては、誰よりも自信をもって判断できる立場にあるということだ。「医者はあくまでコンサルタントとして利用すればよい」という考えである。
多くの人々は高齢の域に達すれば、誰もが記憶力の低下や、筋肉の衰えに悩まされることになると思いこんでいる。周りの状況や常識的な判断に左右され、自らの肉体や意識の現状はいうにおよばず、秘めた可能性について徹底的に試してみることをあきらめているケースが多い。できない可能性にとらわれ、できる可能性を無駄にしているのではないか。
そのような観点からランガー教授は1979年に興味深い実験を行った。ニューハンプシャー州にある老人ホームに入所している高齢者を2つのグループに分けて行った実験である。1つのグループには自分たちが若かったころの思い出話に花を咲かせるように促した。もう1つのグループには自分たちが若かった頃とまったく同じような環境の下で過去を追体験することを促したのである。
後者のグループに対しては、ちょうど20年前の1959年にタイムスリップしたかのような生活環境が用意された。すなわち老人ホームのなかで見る映画やテレビ番組、あるいは耳にする音楽、そして目にする雑誌などもすべて1959年当時のものにし、それらをあたかも今現在起こっていることのように皆で話題にすることを求めたのである。たとえば1959年にはアメリカ初の宇宙船が打ち上げられ、大きな話題となった。そこで今、目の前で初の宇宙船の打ち上げが行われたことにし、その感激や感動を皆で共有したのである。
このような非日常的な生活を1週間体験した後、2つのグループの聴力、視力や記憶力についてテストを行ったところ、後者のグループは前者のグループと比べ遙かに好成績を収めたというではないか。それどころか後者のグループにおいては関節の痛みが減少したと実感する人々や、記憶力が目覚ましく改善したと大喜びする人たちが続出した。
そして実験の前と後に撮影された被験者たちの顔写真を外部の第三者に見てもらったところ、明らかに後者のグループの人々は見た目が若々しくなっていたのである。また、老人特有の指が思うように動かないような症状が改善し、関節が元に戻るほど指も長くなった例もある。
このことをラングラー教授は「マインドフルネスの効果」と名付けた。すなわち日常的な繰り返しやつまらない作業と思いこんでいたことでも、それが意外に自分の健康にとって不可欠の作用をもたらすということに気付けば、意識と体が調和し肉体の問題を改善するきっかけになることがわかったのである。
たとえ小さな変化であったとしても、自らがその変化を楽しむことができるようになれば、我々の置かれている環境が劇的に変化をすることを示唆している。我々はどのようなものにせよ自分の肉体の変化の兆しに気づくだけの「マインドフルネス」をもつことができれば、病気や怪我を未然に防ぐことが意識的に可能になるというわけだ。こうした発想が広がれば、社会が活性化することは間違いない。
※次号に続く。
著者:浜田和幸
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