良きライバル福岡市前副市長・貞刈厚仁氏*中園政直氏~最後にはどちらが笑うか(5)貞刈社長!「博多座の再建」は天命でありますぞ
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組織・企業立上げ役という天命から免れない貞刈厚仁氏
博多座では、12月9日、10日の2日間連続で『僕らこそミュージック』の公演が行われた。博多座の周辺は人通りが少なくなり、文化の香りが漂わない殺風景な雰囲気であったが、公演の前になると人通りが増え活気が生まれていた。久しぶりの活況であったが、コロナ感染が再び拡大すると、博多座にどれほどの打撃を与えるのかと懸念される。
(株)博多座代表取締役社長の貞刈厚仁氏は、「組織・企業立上げ役」という天命から免れない。博多座の2020年3月期決算が5億9,763万円の赤字という実績を見て、筆者は愕然とした。筆者は「今期の決算は、コロナの影響がまだ表れない期間のものと考えられるが、才覚のある貞刈社長の就任1期目で、なぜ赤字になったのか」と疑念を抱いた。加えて、決算書には引当赤字と表示されていたため、「前任者の失敗が残っていたのか」とその背景を邪推した。
貞刈社長に大幅赤字の原因を尋ねると、「今後のコロナの動向を見越して、税法上で認定される赤字を計上した」というコメントを得た。赤字という「負」を前倒ししても、21年3月期の決算で赤字を免れないという見通しだ。大きな覚悟をして、対策を用意周到に講じても、赤字を好転できる可能性は非常に低い。
2008年は過去最大の赤字
博多座の初代社長は、九電出身の松本昇三氏である。創業期は、事業の立ち上げで七転八倒して、大きな赤字を出しながらスタートを切った。2代目は元福岡市助役・青柳紀明氏が就いた。青柳氏は几帳面な人であり、一心不乱に営業に励み、収支の差し引きがゼロの状態までこぎ着けた。3代目は元福岡市副市長・中元弘利氏であった。中元氏はお酒好きであったが、文化事業にまったく関心を示さず、この人事は大失敗に終わった。
青柳氏は、歌舞伎関連の幹部らと一生懸命に人脈を築き、事業拡大に向けて汗を流した。「興業でどうにか黒字にさせるぞ」という意気込みが、青柳氏から伝わってきた。一方、中元氏には本業にまったく関心を示さず、07年に行った6億円の投資信託が結果として1億6,000万円の損失(解約は11年)を出し、リーマン・ショックの影響もあり、過去最大の赤字を計上した。博多座は、風前の灯となったのだ。
再建の功労者・芦塚日出美氏
博多座では、次の4代目の社長人事には苦戦した。赤字企業の再建という難しい事業を引き受ける物好きはおらず、名乗り出る人がいないのは当然であった。このマイナスの状況下で立て直しを託されたのが、4代目社長に就任した芦塚日出美氏であった。
芦塚氏は、九州電力(株)副社長などを歴任し、まさしく「仕事師」であった。九電初の海外事業であるメキシコでの火力発電所建設のプロジェクトリーダーを務めていた。
芦塚氏はその後、九州通信ネットワーク(株)(現・(株)QTnet )の社長に就任するなど、その経営能力は高く評価されていた。加えて、福岡経済のなかでも随一の“文化人”として名高いことからも、博多座の再建役にうってつけであった。
芦塚氏は、10年6月に社長に就任すると、次々と改革を打ち出して実行した。たとえば11年度に年度事業計画、12年度からは中期経営戦略を策定し、各月の事業目標の管理を実施した。
演目でも先進的な取り組みを行い、11年度後半にジャニーズの堂本光一が主演を務めた『Endless SHOCK』の成功は大きな転機となった。企画段階では、博多座の客層とは違うのではないかと懸念されたが、公演前にチケットが完売するほどの大ヒットとなり、懸念を払拭した。
この成功体験から、既存の枠にとらわれずに若手の提案を積極的に取り入れるようになった。さらに、自社での演目制作にも注力するようになり、社員の原価・コスト削減の意識が強まった。経営改善を推し進めた結果、12年度の決算では5,000万円の利益を計上した。芦塚氏は「博多座の再建の功労者」となった。業績が安定した博多座が、次のビジネスに着手していれば、貞刈社長も苦労なく経営できていたであろうが、天命は違っていた。
貞刈厚仁氏の最終挑戦、コロナをしのぐ
12月9日の取材時の貞刈社長のコメントを下記に紹介する。
今日、明日は久しぶりに客席の制限がなくなり、博多座に賑わいが戻りました。『僕らこそミュージック』の公演が行われ、明るく元気な雰囲気が復活しました。博多座は設立後の業績は好調でしたが、リーマン・ショックで苦境に陥りました。しかし、その後、芦塚社長の下で業績を改善して累損を解消するまでもう少しという時期に、コロナショックが起こりました。苦境にあり、今後もしばらくは見通せない状況ですが、先月の市川海老蔵の歌舞伎公演を皮切りにして、業績改善に向けて努力していきます。社員も博多座を守りたいとやる気をもっています。
博多座は2月から公演の中止が続き、売上を失うことなったため、私の報酬を大幅に減額したことは当然の判断です。社員のボーナスや給与をしばらくは減額となりましたが、博多の文化を守るためであると理解し、協力してくれています。今後の事業は、財務面ではこれまでの「どんぶり勘定」ではなく細かく判断していくとともに、社員の知恵やアイデアを活かす方向で取り組んでおり、これから成果が出ると信じています。
筆者はこのコメントを聞いて、博多座の製作関連のスタッフの人々のとても強い使命感を感じて感動し、涙が溢れた。「我々は博多の文化の防衛隊であり、所得に多少の不自由があってもめげないぞ」という闘争の精神は本物である。
好調であった19年決算の業績をそのまま引き継いでいれば、貞刈社長は最終的には変化のない人生を送っていたであろう。しかし「厚仁よ!あなたには楽をさせないぞ。コロナを差向けて苦労させるが、あなたならコロナを乗り越えていけるはずだ。最後の奮闘を楽しみに見ておく」という「神託」が下されたのである。「事業再建」を一生の使命として背負う貞刈社長には、1点の迷いもない。貞刈社長は四六時中、「博多座をどう頑強にするか」について思索を続けている。
(つづく)
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