2024年11月20日( 水 )

コロナを寄せ付けない究極のアンチエイジング 寿命1000歳プロジェクト!(1)

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国際政治経済学者 浜田 和幸
 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染-拡大も気になるが、連日の感染者数に関する報道の過熱ぶりには「恐怖心」をいたずらに煽っているようにも思われる。将来への不安に苛まれ、日本では自殺者の数が急増していることも無視できない。ネット上では根拠の曖昧な情報が飛び交い、人々を疑心暗鬼の闇に引きずり込む一方である。飲食業や旅行産業では経済的な悪影響も深刻化しており、鳴り物入りの「Go Toキャンペーン」も腰砕けになってしまった。来年の東京オリンピック・パラリンピックにも暗雲が立ち込めている。要は、社会全体を暗い影が覆っているといっても過言ではないだろう。

拡大続けるアンチエイジング市場

 こうした状況を乗り越え、人生を自分の思うように切り拓いていくうえで、何よりも大切なカギとなるのは健全な精神と元気な身体だろう。いうまでもなく、健康長寿は世界中の誰もが望むところである。幸い、コロナ騒動にもかかわらず、「先進国の寿命は1日5時間のペースで伸びている」とのこと。このペースでいけば、「2045年には平均寿命は100歳を超える」に違いない。そんななか、「サーチュイン遺伝子」が世界的な注目を集めるようになった。

 「サーチュイン」は、細菌からヒトに至るまで、ほぼすべての生物のなかに宿っており、栄養の変化や環境がおよぼす刺激に対応し、生物の生存を保証するパワーを秘めている貴重な存在だ。近年、新たな生物学上の発見が病理学的にも注目され、肥満や糖尿病の新しい創薬として実用化が期待されているのは頼もしい限りである。

 もちろん、これまでも和食パワーや自然とともに生きる生活様式などのおかげで日本人は世界でも圧倒的な長寿を実現してきた。そこにさらなる新兵器として登場してきたのが、この「サーチュイン」である。その背景には、「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」と呼ばれる、人間をはじめ、すべての生き物の体内に存在している天然のタンパク質が人体の老化防止や寿命の制御に重要な役割を担っている可能性が徐々に明らかになってきたことも大きく影響している。

 実は、この分野での研究をリードしているのは日本人である。米国ワシントン大学の今井眞一郎教授らによる研究グループが、サーチュイン遺伝子についてさまざまな実験を繰り返し、この遺伝子を活性化させることにより、人間の長寿命化が可能になるとの見通しを明らかにしたからである。その結果、世界中の多くの人々が、その実用化に期待を寄せるようになった。当然、各国の医薬品メーカーや食品企業、そして医療機関がこぞって新規参入に邁進している。

 近年、遺伝子の解析スピードが急速に上がっており、ビッグデータの解析手法を使うことにより、長寿遺伝子の解析も長足の進歩を遂げている。その研究対象にもなっているのがサーチュイン遺伝子である。現在、7種類のサーチュイン遺伝子の存在が確認されている。普段は眠っているこれらの遺伝子を覚醒させることで、大幅な延命効果が期待できるというから、肥満や糖尿病に悩むアラブの大富豪に限らず、ビル・ゲイツ氏やウォーレン・バフェット氏ら世界の富裕層の間では、コロナ用ワクチンに負けず劣らず、「サーチュイン」関連の話題でもちきりのようだ。

 世界全体で見れば、このようなアンチエイジングのマーケットは年々膨らむ一方で、今や50兆円規模に達する勢いだ。60歳以上が全体に占める比率も現在は10%程度であるが、2050年までには22%に拡大することが確実視されている。こうした世界的な延命効果を可能としているのは、遺伝子や幹細胞研究をはじめナノテクノロジーを応用した予防医学に他ならない。

 そうした新しい医学の可能性に着目しているのは、医療関係機関や創薬メーカーだけではない。Googleは2012年に未来研究の第一人者で、筆者もよく知るレイ・カーツワイル博士をヘッドハンティングし、「Google・ベンチャーズ」と呼ばれるバイオ技術に関するベンチャー企業を立ち上げた。

 その一環として、1,000万ドルを投資し、創薬メーカーである「アディマブ」を買収したかと思えば、遺伝子研究の世界的権威であるボットステイン博士を中心に「カリコ」と呼ばれるプロジェクトを通じて、人間の寿命を限りなく伸ばす技術の研究開発に着手したのである。

 この種の延命ビジネスの最先端を走っているのは、イギリスのオックスフォード大学のオーブリー・デ・グレイ教授である。拙著『団塊世代のアンチエイジング』(光文社)でも詳しく紹介したが、同教授は、自ら「センス・リサーチ財団」を創設し、遺伝子研究を進めるなかで、自らの肉体を実験材料として使い、「最低でも1000歳の寿命、可能性としては2000歳を目指す」と豪語している。

 そうした動きをGoogleは新たなビジネスチャンスとして捉え、ビッグデータの解析技術を最大限に活用し、人間の寿命をコントロールするという究極のゴールを目指す方針を打ち上げたのである。「現在の平均余命を少なくとも20年、目標としては100~200年は延命できるようにしたい」という。また、ウェアラブルと称される身体装着装置を医療機関と常時繋ぐことで、腕時計やメガネを通じて健康管理を徹底することも可能になってきた。

 一見すれば夢物語のように思われるかもしれないが、100年前に飛行機が発明される前には、誰も人が空を飛べるようになると想像しなかった。また、思い起こせば、インターネットが日常生活にこれほど普及するようになる世界や、携帯やパソコンがこれほど進化する時代が来るとは、誰もが想像しなかったのではないか。

 最近では「ブロックチェーン」と呼ばれる分散型台帳の技術を使い、遠隔で健康診断や治療も行う実験が加速するようになってきた。薬に関するトレーサビリティや効果の検証にも、この技術に対する期待が高まっている。医薬品の過剰摂取や無駄をなくす効果もある。この分野ではアメリカと中国による技術覇権争いが激化する一方となってきた。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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