2024年11月20日( 水 )

世界平和に向けて(17)【特別鼎談】変わるべき「外国人技能実習制度」 コロナ禍で浮き彫りにされた課題(後)

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DEVNET INTERNATIONAL 世界総裁 明川 文保 氏
元駐ベトナム特命全権大使 梅田 邦夫 氏
元駐インド特命全権大使 JICA副理事長 堂道 英明 氏

 日本はこれまで外国人技能実習制度(以下、実習制度)のもと、中国やベトナムなどのアジアの国々から数多くの人材を招いてきた。先進国としての開発途上国に対する貢献活動の意味もあり、これまで多くの実績を残してきたこともたしかだ。一方で、人材送り出し国も経済的発展を遂げ、あらゆる環境が変化したことで同制度の「実態」に光があたることも増えた。コロナ禍によって浮き彫りにされた課題と今後日本が進むべき動向について、3人の有識者が語り合った。

(聞き手 (株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)

コロナ禍だからこそできること 変わるべき実習制度の実態

 明川 今回、コロナ禍によって国際間の物理的交流が止まり、同時に問題も多く生まれました。日本も急激な不況に見舞われており、中小企業は真っ先に切りやすい実習生を一方的に解雇しています。時には空港に置き去りにしたり無給で労働させたりするなど、悪質なものもあると報告を受けています。

 DEVNETではSDGsの一環として実習制度を推奨し、さまざまな取り組みを行ってきましたが、このような状況を踏まえ、より加速化させる必要があると考えています。

 私たちは今、農業に目を向けています。日本には(農協連)(以下、農協)というすばらしい制度があります。この制度そのものをベトナムに提供するというプロジェクトです。この制度のもと、鳥や牛などの家畜を預託し、生産元を援助する仕組みをベトナムで実施する方針です。これは日本に高い農業技術があるにも関わらず、地方を中心に深刻な人材不足があるという問題と、ベトナムで活用されていない豊かな土地の運用を同時に解決するための計画です。現在、農協を中心に声をかけており、実現に向けて動いています。

堂道 英明 氏

 堂道 農協など日本の制度をつくり上げてベトナムで雇用するためには、ベトナム政府から日本政府への支援要請が必要です。この要請があり、日本で支援できる財団や人材が入れば技術協力は可能でしょう。私が社外役員をしている会社では、外国人労働力の安定的確保のために技能実習生の日本での生活を支えるとともに、必要な業種では派遣国の関連企業との提携強化やM&Aも必要と考えています。

 明川氏の構想は、帰国した技能実習生の起業を支援できないかというものであり、似た様な側面があります。一過性の労働力として見ないで、技能の発展を共有して派遣国でも産業を起こそうとしている点が優れた構想だと思います。

 そこで、こうした構想をJICAなどで支援することができるか、という点ですが、たとえば中小企業の海外展開支援制度は、申請する日本企業や事業自体の審査はあるが適用可能とのことでした。JICAの支援はあくまでも日本企業への支援です。これは農業分野でも適用されます。この制度は補助金ではなく構想実現のための調査費用という位置付けですが、それなりの調査費用が出せますので、パイオニアが出て来ることを期待したいです。

 これらの活動を行っていくためには両国政府間で諸問題の解決に対して共同で実施していく認識が必要であり、日本とベトナムの協同で人材を育成するという概念をつくり、それをベースに実習生や特定技能、留学生などを当てはめていくことができれば、より効率・効果が上がってくることが期待できます。

 梅田 農業協力でいえば、ベトナム北部ナムディン省では日本文化日本語学院と南九州大学が連携し、技能実習制度を活用して日本の農場での実習、南九州大学(宮崎)への留学を行っています。また、ベトナムに農業大学はありますが、農業高校がないことからJICA協力のもと、第一号の高校をつくろうという動きもあります。

 また、すぐにでも対応しなければならない問題として、コロナ禍のもと日本での仕事も住居も失い、生活費にも事欠き、帰国もできないベトナム人の増加があります。昨年12月初旬段階で約2万人のベトナム人が帰国を希望していますが、ベトナムにおける隔離施設の収容能力に問題があることから帰国便を増やすことが困難で、帰国したくてもできない状況があります(註=帰国後、コロナ対策として一定期間の隔離が義務付けられている)。

 私が所属している「外国人材共生支援全国協会」(NAGOMi)では、関係省庁と自民党が連携して、技能実習・特定技能・留学・定住(日系人)などに関する制度改善に必要な具体的施策について勉強会を始めています。なお、新たな技能実習生は、人数こそ少ないものの、11月以降訪日し続けています。

 明川 現在、コロナ禍によって面接ができない、人の移動ができないなどの理由で実習制度は停滞しています。また先ほどもご指摘があったように、日本国内の受入企業が実習生を雇用し続けることができず、実習生を蔑ろにしてしまっている状況がより顕著になりました。自国のことで手がいっぱいとなっている状況ですが、今回のコロナ禍は今までの実習制度の在り方を見直し、再編していく機会と捉えることもできます。むしろ、今しかできないことです。コロナ禍が沈静化し、ヒトの移動を含めたグローバル経済が再開すれば、これまでのやり方と変わらない実習制度が運用され、問題はまた闇のなかに紛れるのは明白です。

 人口減少が止まらない日本にとって、人材不足は経済崩壊をも招く要因の1つです。もはや日本にとっては、「貢献活動」ではありません。実習制度の本来の目的にズレが生じることは、時代の移り変わりがある以上、当然起こるべきことです。だからこそ私たちは問題を提起し、時代に合わせた制度の再編や、制度が活かせる環境づくりを目指さなければなりません。

(了)

【麓 由哉】


<プロフィール>
明川 文保
(あけがわ・ふみやす)
DEVNET INTERNATIONAL 世界総裁。日本支局・(一財)DEVNET JAPAN 代表理事。東久邇宮国際文化褒賞記念会 代表理事。山口県生まれ。1973年山口県防府市に日本初の冷凍冷蔵庫・普通倉庫を備えた3温度対応の総合流通センター開設。岸信介元内閣総理大臣後援会青年部会長、衆議院議員安倍晋太郎私設特別秘書、九州山口経済(連)の国際交流委員・運輸通信委員・農林水産委員、山口大学経済学部校外講師などを歴任。

堂道 英明(どうみち・ひであき)
鴻池運輸(株)社外監査役。DEVNET INTERNATIONAL 理事。石川県金沢市出身。日本の外交官。外務省中東アフリカ局長や、駐インド特命全権大使、国際協力機構(JICA)副理事長などを歴任。現在は、鴻池運輸(株)の社外監査役としてこれまで培ってきた経験・人脈を活かし、国際的事業の発展に精力的に活動している。

梅田 邦夫(うめだ・くにお)
(株)日本経済研究所 上席研究主幹。(一財)外国人材共生支援全国協会 理事副会長。広島県出身。日本の元外交官で外務省国際協力局長を経て、2014年からブラジル駐箚特命全権大使、16年からベトナム駐箚特命全権大使を歴任した後、20年に外務省を退職。その後も、実習生問題解決に向けて積極的に活動を行っている。

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