コロナとニューヨーク~大都会の田舎市場(後)
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大嶋 田菜(ニューヨーク在住フリージャーナリスト)
大統領選挙の結果をすぐにニュースで確認すると、やはりバイデン氏が勝っていた。外の騒ぎはまだ続いており、こういう時に皆で盛り上がるところがニューヨークらしい。ニューヨーク市の有権者の90%以上がバイデン氏に投票しているため、喜ばないはずがない。
選挙の数週間前から投票可能だったニューヨーク市では、マスクをしながら長い行列を何時間も待つ多くの有権者がおり、その人々に誰かが無料でピザやコーヒーを配っていた。
選挙の4日後、町中がその結果をお祝いし、それから2~3日間、叫び声やクラクションが絶えず、建物の屋上で音楽などが鳴り続いた。ところが、皆で盛り上がったためか、コロナの感染者が大幅に増えた。アメリカの国中で増えたため、アメリカはまた世界一感染者の多い国になりつつある。ニューヨーク州は他州に比べると、その規模はあまりひどくないことは事実だが、これからの時期は、また厳しくなる可能性もある。
しかし、今日のように雨が降っていても、お客がファーマーズマーケット(市場)に徐々にやってくる。
中南米系の男性が大きな電気ポットに保管しているアップルサイダーを紙コップに注ぐと、白い湯気とともに甘酸っぱい匂いが立ち昇り、近くの青野菜の匂いと混じって広がっていく。お客は高齢者や家族連れが多く、ビニール袋が禁止される以前から布の鞄を肩にぶら下げて、楽しそうに売り場の店の人々と話しながら買物をする。
先週はサンクスギビング(感謝祭)で、パンプキンパイが売れ切れになった。今年は遠出をしないようと要請されたニューヨーク住人も、結局は遠出をして実家に帰ったり、暖かいフロリダに住む両親や親戚と地味に祝ったりしたようだ。
ニューヨークに残った人々は、今ではもう慣れきっているオンラインツールのZoomでお互いの顔を合わせながら、七面鳥を食べるしかなかった。今の時代はそういうもので、ユダヤ人の成人式バル・ミツバー、カトリックの聖体拝領、お葬式、結婚式、ミサも、すべてがズームでできる時代なのだ。もちろん、会社のミーティング、学校や大学の授業、友達同士のおしゃべり、子どもの遊びもそうだ。
それでも、時にはありがたい場合もある。友人の父が数カ月前にバングラデッシュで亡くなったのだが、ニューヨークから移動できない彼女は、ズームで父を見送ることができたようだ。イスラム教の葬式は亡くなった翌日に行われるため、自由に旅行できたとしても式には間違えなく間に合っていなかっただろう。
しかし、それでもやはり人は人と直接、触れ合いたいと感じており、土曜日のファーマーズ・マーケットは身に染みてありがたいのだ。人との関わりを実感できる瞬間があり、その時だけ、自身が大きな町にいることも忘れ、野菜や果物の色と土の匂いに抱かれながら、皆でコロナがなかった時を思い出すのだ。
(了)
<プロフィール>
大嶋 田菜(おおしま・たな)
神奈川県生まれ。スペイン・コンプレテンセ大学社会学部ジャーナリズム専攻卒業。スペイン・エル・ムンド紙(社内賞2度受賞)、東京・共同通信社記者を経てアメリカに渡り、パーソンズ・スクールオブデザイン・イラスト部門卒業。現在、フリーのジャーナリストおよびイラストレーターとしてニューヨークで活動。関連キーワード
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