2024年11月23日( 土 )

【BIS論壇No.338】新年の世界経済情勢

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 NetIB‐Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は2021年1月6日付の記事を紹介。


1. 世界銀行の経済見通し

 世界銀行が1月5日に発表した経済見通しでは、2020年にコロナ危機で戦後最悪の落ち込みとなった世界経済の成長率は、21年は前年比4%増になるとの予測だ。しかし、この見通しは新型コロナウイルスへの適切な対処やワクチンの普及を前提にしており、最近ではコロナ変異種の世界的な蔓延もあるため、下方修正につながるリスクは大きいとみられている。

 一方、世界的な格差拡大や、新興国発の債務危機の危険性にも警鐘を鳴らしている。世界銀行は、20年の世界のGDP成長率を前年比4.3%減と予測。今回の不況について、「過去150年間では、第一次、第二次世界大戦と世界大恐慌につぐ深刻さ」との認識を表明。ワクチンの普及が遅れる場合、21年の世界のGDP成長率は同1.6%増にとどまる可能性もあると予測している。

 先進国はコロナ感染の再拡大で経済の回復ペースが鈍化しており、20年のGDP成長率は同5.4%減。21年は同3.3%増にとどまる見通しだ。米国は20年の同3.6%減から21年には同3.5%増に改善する見込みだ。

 打撃が大きいユ-ロ圏では、20年は同7.4%減、21年は同3.6%増。日本は20年に同5.3%減、21年に同2.5%増であり、米国と比べて回復の勢いが弱いのは問題である。中国は20年に同2%増のプラス成長で、21年に同7.9%増と「1人勝ち」の状態だ。中国以外の新興・途上国では、20年は同5%減、21年は同3.4%増にとどまる見込みだ。

 これらの国の政府債務は20年に急上昇し、南米などの債務危機が問題化した80年代後半以降でもっとも深刻だ。このような状況下、昨年11月に主要20カ国・地域のG20が最貧国の債務を減免することで合意したが、このような国際協調の必要性を世界銀行は強調している。失業や投資の減少など悪影響が今後、長期にわたって継続すると警告している。

 そのため、今後は教育を通じた「人的資本」への投資や、企業の多様で強靭な製品供給網(サプライチェ-ン)の構築などが必要であると訴えている。

2. ADBとAIIBのアジア新興国のコロナ対策で協調融資

 一方、明るい情報としては、コロナ支援でADB(アジア開発銀行)とAIIB(アジアインフラ投資銀行)がアジア新興国のコロナウイルス対策の支援で、協調融資に踏み切ったことがある。

 ADBは加盟国・地域のコロナ対策を支援するため、200億ドルの緊急支援枠を設けて、20年12月上旬までに149億ドルの融資・無償援助を実施した。この一部として、AIIBとバングラディッシュ、カザフスタン、タイなどに11件の協調融資を実施した。ADBの融資額は80億ドルで、AIIBの協調融資額は45億ドル。このような協調融資は、コロナ対策上でも今後とも歓迎されるところだ。

3. 2021年世界の10大リスク

 米調査会社のユーラシアグループは4日、恒例の「2021年世界の10大リスク」を発表。(1)米国46代大統領(バイデン)、(2)長引く新型コロナの影響、(3)気候変動対策をめぐる競争、(4)米中の緊張拡大、(5)世界的なデ-タの規制強化、(6)サイバ-紛争の本格化、(7)トルコ、(8)原油安の打撃を受ける中東、(9)メルケル・ドイツ首相の退任後の欧州、(10)中南米の失望、を挙げている。21年は、これらの動向に十分なる注意が肝要だろう。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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