山村の過疎化地域で「小水力発電」~消滅の危機に瀕する山間地産業が復活(前)
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都市への人口集中が高まっている。江戸時代までは農山漁村の人口が都市の人口に比べて10倍も多かったが、今では農漁村人口が約4,000万人、都市人口が約8,000万人と圧倒的に都市部のほうが多い。山村の過疎化が進んでいるのは、人がその土地に住むために欠かせない木材や薪炭など山から里への流れを生む「山村の産業」が成り立たなくなっているためだ。
減少していた村の子どもの数が増加
人口が約1,400人の岡山県西粟倉村では、地域の資源を生かすことで村単独で村おこしを実施している。子育て世代が活動できる場をつくることで移住が進み、今では都市から移り住んだIターンの割合が1割を超え、減少し続けてきた子どもの数も増加し始めたという。
山や自然が多い村の資源を生かす事業の1つが、川の水から発電して村のエネルギーを自給する小水力発電所だ。小水力発電の定義は明確ではないが、出力1,000kW以下の小規模水力発電を指すことが多い。1966年ごろに建設された西粟倉発電所を、2014年に3億500万円をかけて290kWの発電所に改修し、村の家庭の電気使用量の70%相当を小水力発電でまかなっている。FIT(固定価格買取制度)を利用することで、売電収入は年間1,600万円から7,000万円に増加した。
西粟倉第2発電所(199kW)もまもなく発電開始する。水が高いところから低いところへ流れるエネルギーを使って発電する小水力発電では、どのような経路で水路をつくり、川の水面から水車への「落差」をどれだけ大きくできるかが発電量に大きく影響を与えるため、現地の設計の工夫も欠かせない。
西粟倉第2発電所では、村が管理する河川の取水地点である標高630mから長さ1,000mの水路を引き、標高552mの発電所地点との落差約80mを利用して発電する。発電所建設費や設計費などの投資額は約4億5,000万円、送電線への系統接続工事負担金は2,050万円であるが、FITを利用した20年間の中国電力への売電収入を約9億4,700万円と見込む。
西粟倉第2発電所は西粟倉村と、環境省の地域脱炭素投資推進ファンド事業を行う(一社)グリーンファイナンス推進機構が出資して設立したSPC「あわくら水力発電(株)」が、地域金融機関からの融資を受けて事業を行う。売電収益は村全体で活用する。
小水力発電所の支援を行う(一社)小水力開発支援協会代表理事・中島大氏は、「西粟倉村でIターンの移住者が多いのは、西粟倉村は過疎地であるがゆえに、人が新たに集い何かを始める余地をもつ『フロンティア』であり、楽しんで可能性に挑戦できる場所として若者に魅力があることが理由だ。地域資源を生かし、木材チップを使った地域の熱供給事業など、Iターンを中心に多くのベンチャーが立ち上がっている」と話す。地域では高齢化が進んでいるが、外部からの人材を積極的に受け入れることで村おこしを実現してきた。
森林資源を生かす「百年の森林構想」を09年に開始し、従来は市場中心の販売だったが、現地の森林組合から製材会社などに直接販売できる木材流通システムをつくり、販路拡大に取り組んできた。中島氏は「林業では、山に木があっても売れないことが課題になっているが、これは外国産材が多く輸入されるようになってから、国産材の流通システムが崩壊してしまったことが大きな原因だ。国産材の流通システムを再構築することで、国産材市場を活性化できる」とにらむ。
さらに、木材チップを高温で蒸し焼きにして、燃えやすいガスをつくり発電する小規模の木質バイオマス発電を計画中。「木材は貴重な資源であるため、できるだけ材木として販売して、製材時に発生する廃材や間伐材をエネルギー利用している」(中島氏)という。市街地では木質燃料をボイラーで燃やし、公共施設や温泉などに熱を供給している。
身近なところでも小水力発電、TOTOの自動水栓も
小水力発電は、実は意外なところでも利用されている。たとえば、お手洗いにある自動で水が出る洗面台だ。TOTOの自動水栓には、水道管のなかに小さな水車が付いていて自動水栓で必要な電力を発電している。水があれば、身近な場所で活用できる可能性を秘めているということだ。
中島氏は「山小屋や山村地域の観光施設など電源がなく、電線を引くにも遠い場所では、近くの川などの水で電気を発電することがある」という。西粟倉村の山奥の国定公園内にあり、電線が届いていない山小屋のトイレでは、浄化槽を稼働させる電力を近くの川の水で発電している。また、農業用などの水を引くためにつくられた用水路でも、小水力発電で近くの街灯に電力を供給しているケースもある。
(つづく)
【石井 ゆかり】
<プロフィール>
中島 大(なかじま・まさる)
全国小水力利用推進協議会事務局長、(一社)小水力開発支援協会代表理事。1961年生まれ、東京都出身。85年東京大学理学物理学科卒。85年から(財)ふるさと情報センター勤務、92年から(株)ヴァイアブルテクノロジー取締役。2005年に小水力利用推進協議会設立、事務局長を務める。09年に小水力開発支援協会設立、10年から代表理事。著書は『小水力発電が地域を救う』(東洋経済新報社)など。関連キーワード
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