2024年09月13日( 金 )

【メガバンク】勝ち名乗りを上げるのはどこか 生き残り賭ける3大メガバンク

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エリート銀行員が自ら草むしり~三井住友

 改めるまでもないが、銀行業の基軸は預貸業務。しかし、金融庁主導で地銀の再編・統合が図られている現在、「超」の字がつく低金利下で預貸の利鞘が大幅に圧縮されている。これは、小なりとはいえ銀行の破綻が取り付け騒ぎに始まる大混乱を招くことになるからで、ましてや3大メガバンクの大きな躓き・危機ともなれば、経済の血液とされる金融機能の崩壊で血流が滞り、「日本経済崩壊」も過言ではなくなる。

 三菱UFJフィナンシャルグループ(以下、三菱UFJ銀行)、三井住友フィナンシャルグループ(三井住友銀行)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ銀行)を取り巻く経営環境とて、じつは地銀とそう変わりはない。各行とも差別化戦略を以て、「勝ち組」と名指しされる道の模索に懸命になっている。

 そのことを痛感したのは、2016年夏のこと。三井住友銀行が「農業法人化に本格的に参入する」と宣言した。当初は超低金利時代の苦肉の策と受け止めたが、同行初の女性役員、工藤禎子常務(現・専務)の「こういう時代だからこそ、自ら新たな需要を耕して融資を積み重ねていくことが大事」という発言に接した。

 同社は、秋田県大潟村のあきたこまち生産者協会と共同で、農地所有適格法人『みらい共創ファーム秋田』を設立した。「秋田県内で米の生産を行い、大規模営農化にともなうコスト削減や海外を含む新たな新路開拓などを通し、効率的で収益性の高い農業経営モデルを構築し農業の成長産業化や地方再生の実現に貢献する」と謳う。

 三井住友側からは設立早々に、行歴10年クラスのスタッフがみらい共創ファーム秋田に出向した。目的は、大規模かつ効率的な農業モデルの構築。もっとも、頭でっかちな「論」が先行しては現地農業従業者の理解は得られない。大潟村は、八郎潟を干拓した米作地域。周辺農家に生産受託を増やすことから始めたが、思い通りには進まなかった。「米以外にこの地にあう作物はないか」と探し、玉ねぎにたどりついた。出向組自らが雑草とりを始めるようになると周辺農家の集まりなどに誘われ、今では期待を寄せられるまでになっている。同行の役員は「大潟村産のオニオンスライスは酒肴に合うよ」と真顔で言う。あきたこまちの委託生産も増加傾向にある。

3大メガバンク、アナリストの分析結果

 3大メガバンクの現在の収益面の力関係はどんな具合か。2020年3月期決算でみると、こんな状況にある。一般企業の売上高に相当する経常収益では、1位:三菱UFJ銀行(3兆6,600億円)、2位:三井住友住友(2兆8,500億円)、3位:みずほ銀行(2兆7,600億円)。当期利益は1位:三井住友銀行(3,174億円)、2位:みずほ銀行(3,077億円)、3位:三菱UFJ銀行(6,530億円の損失)。売上で2位も利益で1位の三井住友銀行を、前記した「農業法人化/新たな融資先拡充」など、姿勢の効果とする見方もある。しかし三菱UFJ銀行は、当該期に完全子会社化したバンクダナモン(インドネシアの大手銀行)の「のれん代一括償却」を実施、特損を計上しているのが実態。さらに前期決算からは、3行の特徴が透けて見える。

三菱UFJ銀行

 バンクダナモンと同様にアユタヤ銀行(タイ)やヴィエティンバンク(ベトナム)などエリア主力銀行のM&Aを展開し、アジアのグローバル銀行を標榜している。前期末時点で海外に70以上の拠点を有し、全貸出残高の約40%を海外で占める。

三井住友銀行

 「稼ぐ力」向上に重点を置いている。言葉を選ばずにいえば、リスクを取りに向かう。「無担保、第三者保証不要」融資に象徴的。一方でいち早くペーパーレス化に取り組むなど経費削減に注力している(前期経費率59.4%、3大メガ中トップ)。また過去10年間で海外融資残高が約4倍と、海外展開にも進捗をみせる。

みずほ銀行

 「One Mizuho戦略」を執る。特徴的なのが業界初のカンパニー制であり、ダブルカウント制。前者は銀行・信託・証券の縦割りではなく、顧客の属性別セグメントに合わせた5カンパニーで、顧客ニーズに沿った連携サービスを提供している。後者はたとえば銀行と証券で顧客に10億円の資金提供をした場合、銀行も証券も10億円提供とカウント。グループ内の争いは無益という姿勢である。

 各行の特徴や姿勢を客観的に評価するのは容易ではない。たとえばムーディーズの格付けでは3行とも「長期・短期」のジャッジは、横並びで「安定」とされている。さらに金融機関の健全性を示す自己資本比率(国際基準)では、3行とも安定した推移を示す。

 では3行の優劣を図る物差しはないのか。私の持論は「株価は企業に対する通信簿」。無論、発行済み株式や1株あたり利益が異なる以上単純比較はできない。東証一部上場企業に(株)アイフィスジャパンがある。業界別のアナリスト総勢約2,000人の協力を得て、主要企業の株価予想(IFIS目標平均株価)を公開している。本校作成時点の3行の時価とIFIS目標平均株価は、以下のような状態。

三菱UFJ銀行
505円に対し561円。アナリスト12人中7人が強気。乖離率11%強。
三井住友銀行
3,433円対し4,236円。12人中9人が強気。23%強。
みずほ銀行
1,489円対し1,589円。12人中3人が強気。7%弱。

 「期待」株価動向は、これから3大メガ銀行の戦場となる「金融フィンテック」動向も反映している。

【千葉 明】


〈プロフィール〉
千葉 明

1973 年日本短波放送(現・日経ラジオ社)入社。経済評論家・亀岡大郎氏に師事。日本短波放送・兜倶楽部詰め放送記者。【主著】に亀岡氏主宰の亀岡大郎取材班など『野村證券 企業部』『円闘』『ザ・ノンバンク』『不況にも強い一流の経営』『男が勝負する時』など著作 25 冊。

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