菅首相の「CO2実質ゼロ」宣言~原発と再エネの綱引きが激化(中)
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認定NPO法人環境エネルギー政策研究所 所長 飯田 哲也 氏
政府が昨年10月に掲げた「2050年CO2実質ゼロ」宣言により、原発の再稼働を求める声が高まっている。一方、再生可能エネルギーの導入拡大の制約となる規制の改革に向けて、河野太郎行政改革担当大臣が主導するタスクフォースも動き出した。再エネ政策の提言を行っている認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長・飯田哲也氏に2021年の再エネの動向と展望を聞いた。
容量市場は撤回すべき
一方、再エネの導入拡大に向けて制約となる規制を緩和するために河野太郎行政改革担当大臣の主導で設置されたタスクフォースが開催され、20年12月1日に「容量市場(※1)」などの課題、25日に再エネ用地などの課題が議論された。「原発問題には政治的に正面から切り込めなくても、政策や現場レベルで解決が必要な問題に関して、議論の場をようやくもつことができます。規制改革に向けて大きな成果を上げる可能性があります」と飯田氏は期待を寄せる。
初回で取り上げられた容量市場は、7月に日本での初入札が行われたが、制度設計がずさんすぎた。容量市場とは、電力自由化や再エネの普及が進むなかで、電力の安定供給を担保する仕組みの1つだが、問題点や課題も多いため、欧米でもまさに大きな議論の的になっている最中だ。
日本の容量市場は、欧州のように、CO2を多く排出する石炭火力発電の排除や再エネの変動を吸収する調整力をもつ電源への優遇がなく、石炭火力や原子力発電を参加させており、実質的に再エネ抑制となっている。「私は8月から容量市場をゼロベースで見直すべきと主張してきましたが、直接の被害を受ける再エネ事業者は問題を感じても、『長いものには巻かれろ』『一度決まったものは仕方ない』とあきらめムードでした。そこで河野行政担当大臣のタスクフォースは、委員の連名で容量市場をゼロベースで見直してほしいと主張し、一気に雰囲気が変わりました。今後の推移を注視したいです」と飯田氏は語る。
また、飯田氏は日本で太陽光・風力発電を拡大するには、農地の活用が必須であるとタスクフォースで提案した。18年の総発電電力量は1兆600億kWhだが、その約3割を節電し、残りを風力発電と太陽光発電で折半すれば、太陽光発電では約3,000〜5,000億kWhを発電すればよい。全国で太陽光発電を導入できる土地のポテンシャルの3兆3,000億kWhのうち、9割は農地(荒廃農地含む)であるため、その一部を利用するだけで電力を再エネで100%供給できるという。
農業用地の確保を優先しても、荒廃農地40万haや生産性の低い農地30~50万haで、畑の上にソーラーパネルを設置し、農業と両立するソーラーシェアリングを行えば、太陽光発電用地を十分に確保できると見込まれる。
「使われていない農地(耕作放棄地)を活用すれば、発電所の設置時に森林破壊などが起こることもなく、太陽光発電を大規模に普及させることができます。また、農地を再エネ発電所に使う場合には農地転用が必要であることが再エネ普及の壁となっていますが、太陽光、風力発電では農地転用の規制は不要ではないでしょうか。タスクフォースでは、河野行政改革担当大臣の突破力で、再エネ関連規制の方向性を大きく変えられる可能性があります」と飯田氏は指摘する。
(つづく)
【石井 ゆかり】
※1:発電所が発電できる能力を取引する市場 ^
<プロフィール>
飯田 哲也(いいだ・てつなり)
1959年山口県生まれ。京都大学工学研究科原子核工学専攻修了、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長。日本のFITの起草者で、自然エネルギー政策では国内外の第一人者かつ日本を代表する社会イノベータ。国内外に豊富なネットワークをもち、REN21運営委員、自然エネルギー100%プラットフォーム理事などを務め、2016年には世界風力エネルギー名誉賞を受賞。日本でも国・自治体の委員を歴任。著書に『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論社)、『エネルギー進化論』(ちくま新書)、『メガ・リスク時代の日本再生戦略』(共著、筑摩書房)など多数。関連キーワード
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