2024年07月17日( 水 )

リニア計画は、なぜ、とん挫しているのか(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 JR東海が2027年に予定しているリニア中央新幹線の品川~名古屋間の開業が、延期に追い込まれる可能性がある。静岡県内で実施されているリニア中央新幹線のトンネル工事により、大井川の流量が減少する恐れがあるが、これに対してJR東海が十分な対策を示さず、静岡県が工事を認めないことが原因である。

 リニア建設に反対する人のなかには、大井川の渇水だけでなく、「新規に原発を建設しないと、リニアを走行させる電力が賄えない」を理由にする。幸か不幸か、民主党政権時に再生可能エネルギー固定価格買い取り制度が始まったため、再生可能エネルギーによる発電が増えていることはたしかである。問題は、それを既存の送電線網に接続させれば良いが、電力会社が「不安定な電気を送電線網に送られると、電力の安定供給に支障を来す」と難色を示していることだ。

 この問題に関しては、今後はIT技術が進歩して必要な場所に必要な量の電力を供給できるようになるため、新規に原発を建設しなくても、「電力の安定供給」に対する心配事は、解消されるであろう。

 リニア計画は、事業費の3分の1を財政投融資で賄うことへの反対意見も根強い。東海道新幹線が老朽化しており、かつ東南海沖地震が懸念され、時間帯によれば東海道新幹線は混雑しているため、「冗長性の担保」という観点からも、リニアは「建設せざるを得ない」と考えている。

 リニア新幹線は、路線の9割がトンネルであるため、筆者は「利用したい」とは思わないが、ビジネスマンは時間が勝負であるから、利用するであろうと考える。また東京~大阪間は、航空機からリニアへ旅客がモーダルシフトしたり、新大阪で山陽新幹線への乗り換え需要が生じるため、東京~岡山間や東京~広島間の旅客が、航空機からモーダルシフトすることも考えられる。

 それ以外にも、山梨県に在住の人がリニアと東海道新幹線を利用して、熱海や伊豆方面へ出かけたり、東京地区の人がリニアを利用して、伊勢志摩へ出かけるなどの需要が創出される可能性もある。

 近鉄は、リニアが新大阪まで開通すると、自社の看板列車である名阪特急の需要が減少することを危惧する一方、名古屋から伊勢志摩方面への新規需要の創出を、模索するであろう。名阪間に関しては、2020年3月に「ひのとり」という窓が大きい豪華な新型特急をデビューさせ、今後は大和八木や名張、四日市への停車を増やし、リニアでは提供できないサービスを展開する考えを示している。

 リニアは、日本の社会インフラでもあることから、これをうまく活用すれば、新たな日本の発展につながることは事実である。それゆえ財政投融資による3兆円の投入は、決して無駄な投資であるとは思っていない。だがその前に、JR東海は大井川の渇水が予想される静岡県や地域の住民に対し、納得が行くような説明を行い、合意形成を行うことが、不可欠ではある。

 現時点では、JR東海は説明不十分と言わざるを得ず、大井川を活用して生計を立てている人がいるだけでなく、南アルプスの生態系を破壊する行為はあってはならない。

 最後に、筆者はリニア建設に反対する人も、仮に建設しない場合の代替輸送手段を提案する必要があると考え、リニアには乗車したくないが、リニアは必要だと考えている。だがその前に、大井川の渇水防止や南アルプスの生態系の保全を十分に行ってから、建設をしなければならない旨を述べたい。

(了)

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