2024年11月05日( 火 )

ポスト・コロナ時代をどう生きるか?変化する国家・地域・企業・個人、そして技術の役割(3)

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 ポスト・コロナ時代に、バイデン新政権下での米国、中国、ミャンマー、台湾、韓国、北朝鮮、中東などの国際情勢はどう動き、日本はどのような役割をはたすべきなのか。さらに、管理社会化が進むなか、国家や企業、個人は新しい時代をどのように切り開いていくべきなのか。国際政治経済学者・浜田和幸氏、元公安調査庁第2部長で現アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏、経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏が鼎談(ていだん)を行った。

「ステイホーム」の限界~AIと人の役割

(独)経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏
(独)経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏

 藤 感染症専門家の医師は、普段よく会う人より時々に会う人の方が感染リスクは高いといいます。できるだけ普段会っている人と付き合えば、うつりにくいので、感染症対策でも信頼できるコミュニティーが大切です。ハイテク化が進むなかで、人は触れ合いや温もりを求める面でも、コミュニティーや地域社会を整えるべきではないでしょうか。

 菅沼 家族内でも感染対策が必要と言われ、「ステイホーム」でメンタル問題が多発しているのは、人は1人では生きられないということの象徴です。人間社会が、コミュニティーを大切にする本来の姿に戻るきっかけになるでしょう。

 浜田 政府は出勤者数7割削減を要請していますが、ますますITやAI(人工知能)に頼る世の中に移行するのでしょうか。

 菅沼 AIは過去のデータを基に判断するので、効率は高まりますが、災害など「想定外」のアクシデントにはうまく対応できず、人間が対処しなければならない場面が必ず出てきます。

 浜田 コロナで通院に不安を感じる人が多く、かかりつけ医のオンライン・リモート診断も広がりつつありますね。

 菅沼 私はがん手術を受けるときに、いつも通っている九段坂病院に行きました。「有名な病院で手術を受けないのか」と言われましたが、信頼している医師にお願いしたかったのです。病気を治す力は、医師との信頼関係から生まれます。今の医師と患者の関係は、あまりに希薄になりつつあることが懸念されます。

バイデン新政権下での米中関係

国際政治経済学者 浜田和幸氏
国際政治経済学者 浜田和幸氏

 浜田 トランプ前大統領は「武漢ウイルス」と命名するなど、あらゆる機会を捉えて米中対立を激化させ、「アメリカファースト」で世界経済を大混乱に陥れました。バイデン新政権下の米国はオーストラリアやインドと同盟を結んで中国との関係改善を目指していますが、はたして米国のシナリオ通りに国際秩序が回復し、米中関係は正常化するのでしょうか。また、ファイブ・アイズの準メンバーとして期待される日本が米中関係ではたすべき役割とは何でしょうか。

 菅沼 米国は国内の経済政策やコロナ問題が最優先であるため、しばらくは中国問題に取り組む余裕がないでしょう。共和党と民主党の対立も激しく、バイデン大統領の就任式は無人という絶望的な状況で行われました。米国は連邦制で、各州がそれぞれ独立して行動するのが自然な姿ですが、バイデン大統領は「より完全な連邦」を目指し、1つの国にまとめようとしています。

 以前のWASP、つまりアングロサクソン系でプロテスタントの白人が多くの閣僚を占めていたころは、プロテスタント主義で世界が仰ぎ見る立派な国を築く「丘の上の町」が米国の理想でよかったでしょう。しかし、バイデン政権では、ブリンケン国務長官やサリバン国家安全保障担当大統領補佐官はユダヤ系、カマラ・ハリス副大統領はインド系で、キリスト教以外の閣僚も多く、はたして「より完全な連邦」は実現できるのでしょうか。

 日本は米中問題で、ブリンケン国務長官やサリバン補佐官の言動に一喜一憂していますが、米国でコロナ不況が深刻化し、経済の重要性が高まると日本への圧力も非常に強まることが懸念されます。

バイデン政権のアジア政策

 浜田 トランプ前大統領は在日米軍の駐留経費に関して日本側に4倍の負担を求め、米国の雇用を守るためと日本企業は米国に工場をつくる協力をしましたが、バイデン政権での日本への強い要求はまだ見えていません。

 菅沼 これまでも民主党政権は日本に対して厳しく、オバマ政権は交渉の場ではとても冷淡で、歩み寄る気配はありませんでした。

 浜田 日本が本音の部分で米国との体制を構築しなければ、米国は濡れ手に粟ですね。バイデン大統領は政治・社会・経済が分断された米国をどうまとめ、経済を立て直すのでしょうか。「自由で開かれたアジア太平洋」戦略は、尖閣諸島で軍事的紛争が起こったら米国は大切な日本を守るというポーズで、在日米軍の予算を引き出そうとしていますね。

アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏
アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏

 菅沼 「自由で開かれたアジア太平洋」は台湾が焦点です。尖閣諸島問題も、固有の領土だと主張する台湾との関係も解決しなければ前に進みません。米国は台湾の重要性を認識して大統領就任式に駐米台湾大使を招待しており、バイデン大統領がどのように台湾をめぐる対中交渉を進めるのか、注目されています。

 浜田 台北にある米国在台湾協会(AIT)の裏に米軍が基地をつくっており、トランプ政権から、警備する海兵隊軍が私服から制服を着るようになったことからも、米国が台湾を国として認め、防衛の重要性を高めていると感じます。

 藤 バイデン氏は新たな雇用を生み出そうとグリーン・エコノミー政策を推進していますが、太陽電池は中国、EV(電気自動車)の蓄電池は韓国が主に製造しており、製造業に携わる白人のトランプ支持派にはその恩恵が回りません。

 浜田 仮想敵国となる中国、ロシア、イランは日本とも関わりの深い国ですね。

 藤 米国は、脅威であるロシア、手ごわい競争相手の中国が大きな帝国にならないよう手だてを打っています。社会の分断を乗り越えるには、国外に敵をつくる「冷戦」は避けられません。一方、中国から独立性を保てるかということが「危機」とされる台湾では、「危機」であるとの認識が広まれば、実際に「危機」は生じないという「危機のパラドックス」のような現象が起きるかもしれません。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
浜田 和幸
(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

菅沼 光弘(すがぬま・みつひろ)
 アジア社会経済開発協力会会長。東京大学法学部卒業。1959年に公安調査庁入庁。入庁後すぐにドイツ・マインツ大学に留学、ドイツ連邦情報局(BND)に派遣され、対外情報機関の調査に携わる。帰国後、対外情報活動部門を中心に、元公安調査庁調査部第二部長として旧ソ連、北朝鮮、中国の情報分析に35年間従事。世界各国の情報機関との太いパイプをもつ、クライシス・マネジメントの日本における第一人者。主な著書に『この国を脅かす権力の正体』(徳間書店)、『日本人が知らない地政学が教えるこの国の針路』(KKベストセラーズ)、『ヤクザと妓生がつくった大韓民国』(ビジネス社)、『米中新冷戦時代のアジア新秩序』(三交社)など。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)
 (独)経済産業省経済産業研究所コンサルティング・フェロー。1960年生まれ、愛知県名古屋市出身。早稲田大学法学部卒。84年通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギーや通商、中小企業政策などの分野に携わる。2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、16年から現職。主な著書に『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』(PHP研究所)、『石油を読む―地政学的発想を超えて 』(日経文庫)、『原油暴落で変わる世界』(日本経済出版社)など。

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