2024年11月24日( 日 )

ポスト・コロナ時代をどう生きるか?変化する国家・地域・企業・個人、そして技術の役割(4)

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 ポスト・コロナ時代に、バイデン新政権下での米国、中国、ミャンマー、台湾、韓国、北朝鮮、中東などの国際情勢はどう動き、日本はどのような役割をはたすべきなのか。さらに、管理社会化が進むなか、国家や企業、個人は新しい時代をどのように切り開いていくべきなのか。国際政治経済学者・浜田和幸氏、元公安調査庁第2部長で現アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏、経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏が鼎談(ていだん)を行った。

ミャンマーのクーデターの裏に中国・インド対立

(独)経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏
(独)経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏

 藤 ミャンマーのクーデターの裏側にあるのは、中国とインドの対立だと考えています。インドはミャンマーと国境を1,000km以上接しており、インド北東部のミャンマーと接するアルナーチャル・プラデーシュ州を中国は自国の領土だと主張しています。米国とイギリスはインドをサポートして山岳地域での紛争を激化させれば、中国が海洋進出に注ぐエネルギーを減らすことができます。米国は昨年10月、インドと機密情報の共有協定を結び、衛星データなど軍事基地の情報も共有しています。この国境の線を引いたのはインドを植民地にしたイギリス人です。どの地域がもっとも争いが激しくなるのかを熟知しているのではないでしょうか。

 菅沼 ミャンマーのクーデターのもう1つの問題は、かつて統治していた130以上の少数民族の武装勢力をどう鎮圧するかということです。軍部は、このままミャンマーが民主化すると、国家が分解してミャンマーそのもの、国がなくなることを恐れています。

 藤 ミャンマーは中国との関係が悪化しており、中国が自国民の保護を名目に、ミャンマーに軍を派遣すればインドと衝突します。

国際政治経済学者 浜田和幸氏
国際政治経済学者 浜田和幸氏

 浜田 天然ガスなどの資源が豊富で、麻薬の生産地としても有名で、アジア最後のフロンティアといわれるミャンマーにインドと中国の対立の影がおよんでいます。ミャンマー政府はロヒンギャを軍で弾圧せず、軍政寄りの姿勢です。ミャンマーは親日国で日系企業が460社も進出していますが、軍が経済もコントロールしていたため、キリンビールも軍と取引関係にある現地企業との合弁を解消する方針を決めましたね。

 菅沼 ミャンマーの民主化も重要ですが、その裏で中国やインドはどのような意図で争っているのかを日本も見極めることが必要です。

 浜田 中国、朝鮮半島、ミャンマー、インドなどで「争いのパンデミック」の火種がいつ爆発するかわからない状況が続きますね。

朝鮮半島の情勢

 菅沼 日本は外交で、アジアにもっと目を向けるべきです。たとえば最近、日本外交の1つの焦点となっているベトナムです。これから、誰と関係を築くべきかを見極めることが欠かせません。

 浜田 ベトナムはコロナ禍でも経済成長していますが、南北で対立する可能性もありますね。ASEANで経済成長が注目されるインドネシアとともに、ベトナムも中国の動きをけん制するために味方に付けたい国です。

 菅沼 ベトナムは米朝会談の場を提供しましたが、北朝鮮との関係は必ずしも良くありません。しかし、ベトナム戦争時は北朝鮮のパイロットが活躍していました。いずれにしても国際関係は単純でないので、歴史を踏まえて深く見るべきです。

 浜田 朝鮮半島の情勢はどうですか。

 菅沼 米国は、中国に接近する北朝鮮や韓国をけん制しようとしています。朝鮮戦争は正式には終わっておらず、事実上、韓国は米国の占領下、北朝鮮は中国とロシアの支配下にあるため、米国、中国、ロシアの意向を無視しては何も動きません。韓国、北朝鮮は南北統一というスローガンの下、自立に向けてもがいています。

アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏
アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏

 米国は北朝鮮向けの中距離ミサイルを開発したと発表していますが、本当は中国に向けたものです。北朝鮮が韓国や沖縄の米軍基地向けとして発表している短距離ミサイルも中国・北京向けかもしれません。北朝鮮も中国の支配下から独立したいのです。北朝鮮は「コロナ阻止」という名目で中国との国境を閉鎖しましたが、食料品などを中国から全面的に援助してもらう必要はないというジェスチャーかもしれません。北朝鮮や韓国は本来外交には長けていますが、儒教のイデオロギーや強い勢力に付き従う事大主義に動かされる点が足を引っ張っています。

 浜田 朝鮮半島が南北統一して、豊富な北朝鮮の資源を韓国が開発し製品化すれば、日本の脅威となる核大国になりますね。

 菅沼 朝鮮半島で起こした戦争で中国の台湾開放を阻止したといわれるほど、朝鮮半島と台湾の問題は深く関わっています。朝鮮半島のことを考えるときには、常に台湾のことも念頭に入れておかなければなりません。

 藤 台湾有事は、日本が国家存続のために確保しなければならない海上交通路(シーレーン)の脅威に直結することが懸念されます。

 菅沼 米国は、中国が石油などの資源を輸入する中東やアフリカからのシーレーンを遮断しようとしています。

 藤 中国は石油の自給率が約3割に下がっており、シーレーンを遮断されると経済が大きな影響を受けるはずです。

 菅沼 日本は、多くの原材料や食糧を輸入しないと国民の生活に支障が出るため、シーレーンの確保は大きな課題です。ところが、日本は1972年の中国との国交回復時に、簡単に台湾と国交を断絶しました。一方、シーレーンの問題から台湾の重要性を認識している米国は国内法で台湾の現状を維持して、ようやく79年に中国との国交を正常化しています。日本も台湾の認識を見直すべきではないでしょうか。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
浜田 和幸
(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

菅沼 光弘(すがぬま・みつひろ)
 アジア社会経済開発協力会会長。東京大学法学部卒業。1959年に公安調査庁入庁。入庁後すぐにドイツ・マインツ大学に留学、ドイツ連邦情報局(BND)に派遣され、対外情報機関の調査に携わる。帰国後、対外情報活動部門を中心に、元公安調査庁調査部第二部長として旧ソ連、北朝鮮、中国の情報分析に35年間従事。世界各国の情報機関との太いパイプをもつ、クライシス・マネジメントの日本における第一人者。主な著書に『この国を脅かす権力の正体』(徳間書店)、『日本人が知らない地政学が教えるこの国の針路』(KKベストセラーズ)、『ヤクザと妓生がつくった大韓民国』(ビジネス社)、『米中新冷戦時代のアジア新秩序』(三交社)など。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)
 (独)経済産業省経済産業研究所コンサルティング・フェロー。1960年生まれ、愛知県名古屋市出身。早稲田大学法学部卒。84年通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギーや通商、中小企業政策などの分野に携わる。2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、16年から現職。主な著書に『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』(PHP研究所)、『石油を読む―地政学的発想を超えて 』(日経文庫)、『原油暴落で変わる世界』(日本経済出版社)など。

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