ポスト・コロナ時代をどう生きるか?変化する国家・地域・企業・個人、そして技術の役割(5)
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ポスト・コロナ時代に、バイデン新政権下での米国、中国、ミャンマー、台湾、韓国、北朝鮮、中東などの国際情勢はどう動き、日本はどのような役割をはたすべきなのか。さらに、管理社会化が進むなか、国家や企業、個人は新しい時代をどのように切り開いていくべきなのか。国際政治経済学者・浜田和幸氏、元公安調査庁第2部長で現アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏、経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏が鼎談(ていだん)を行った。
不安定な中東、イランが台頭
浜田 安倍前首相は米国とイランの国際関係を仲裁しようとイランを訪問しましたが、イラン核合意では成果が出ませんでした。欧州はイランの核合意復帰を望みますが、バイデン政権はイランが核開発をストップしないと交渉に乗らない、イランは経済制裁の解除が先だと互いに主張を譲りません。中国はその間を縫うようにイランにもワクチン外交を行い、石油を購入して関係の構築に努めています。日本は、親日国のイランが欧米との関係を改善できるように役割を果たせないでしょうか。
藤 イランは外交に長けています。「危機」と報道されるイランよりも、OPEC主要生産国のサウジアラビアやイラクで危機が起こる可能性が高いです。米大手証券の格付け機関ムーディーズは、ムハンマド皇太子の失政で財源が悪化して消費税が5%から15%に上がり、公務員の給与を半分にする動きから、「第2のアラブの春」が起こるのはサウジアラビアではないかと予想しています。イランの石油産出量は1日当たり200万バレル以上もありますが、日本はイランから石油を輸入していません。一方、サウジアラビアとイラクの情勢が不安定になると、石油輸入が大打撃を受け、市場にあふれるマネーが流れ込み、激しいインフレが起こることが懸念されます。
イエメンの内戦は、武器や軍事資金を援助しているサウジアラビアとイランの代理戦争です。米国は、バイデン政権がイエメン内戦の解決に向けて「ゴーサイン」を出したので、国連の特使も紛争解決に向けてイランを訪問しており、大きな進展があるでしょう。
菅沼 米国は、対テロ作戦と称して戦争を起こし、イラクやアフガニスタンを弱体化しました。その結果、中東ではイランの勢力が急拡大しています。
かつて安倍晋三前首相は秘書官として安倍晋太郎外務大臣のイラン訪問に同行したことがあり、最高指導者のハメネイ師との関係を築いていますが、中東の対立の複雑さは日本人の理解の範囲を超えるものがあり、結局イランと米国との仲裁はできませんでした。
藤 米国は自国が支配できる世界秩序を保つため、イランが大帝国になるのを阻止すべく、イスラエルに力を付けさせて勢力を削ごうとしています。日本は中東で紛争が起こると石油の輸入が止まりダメージを受けますが、脱炭素政策で中東の原油に対する米国の関心がなくなると、中東との外交で日本が軽視される恐れがあります。
菅沼 脱石油が進むと、石油資源のある中東は米国にとって外交上の重要性が下がるでしょう。
富の源泉は石油からデータへ
浜田 21世紀は石油に代わって、データが富を生むと言われています。
菅沼 1971年のニクソンショックで「紙切れ」になったドルが、その後も基軸通貨として信用されたのは、世界が石油代金をドルで支払っていたからです。ニクソンショックの後、キッシンジャー氏がサウジアラビアを急遽訪問し、安全保障を担保する代わりに石油をドル決済とすることを取り付けたのです。一方、サダム・フセイン大統領がイラク産の石油をユーロ決済にしようとしたときは、米国が基軸通貨ドルを守るべくイラクを軍事攻撃しました。石油に代わりにデータが富を生む時代になると、基軸通貨ドルの信用はどこから生まれるのでしょうか。
藤 ドルの信用があるのは、米国が世界の警察官として各国に軍を展開していて、軍事費用がドルで支払われるからです。世界の主導権がイギリスから米国に移ったときも、基軸通貨がポンドからドルに変わったのはその50年後でした。通貨は保守的な性格をもっているため、中国が仮に覇権を握ったとしても、すぐに基軸通貨はドルから人民元になることはありません。人民元は資本取引が自由化されていないので、デジタル化しても換金可能な信用力の高いハードカレンシーにはならないと予想されます。
(つづく)
【石井 ゆかり】
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。菅沼 光弘(すがぬま・みつひろ)
アジア社会経済開発協力会会長。東京大学法学部卒業。1959年に公安調査庁入庁。入庁後すぐにドイツ・マインツ大学に留学、ドイツ連邦情報局(BND)に派遣され、対外情報機関の調査に携わる。帰国後、対外情報活動部門を中心に、元公安調査庁調査部第二部長として旧ソ連、北朝鮮、中国の情報分析に35年間従事。世界各国の情報機関との太いパイプをもつ、クライシス・マネジメントの日本における第一人者。主な著書に『この国を脅かす権力の正体』(徳間書店)、『日本人が知らない地政学が教えるこの国の針路』(KKベストセラーズ)、『ヤクザと妓生がつくった大韓民国』(ビジネス社)、『米中新冷戦時代のアジア新秩序』(三交社)など。藤 和彦(ふじ・かずひこ)
(独)経済産業省経済産業研究所コンサルティング・フェロー。1960年生まれ、愛知県名古屋市出身。早稲田大学法学部卒。84年通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギーや通商、中小企業政策などの分野に携わる。2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、16年から現職。主な著書に『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』(PHP研究所)、『石油を読む―地政学的発想を超えて 』(日経文庫)、『原油暴落で変わる世界』(日本経済出版社)など。関連キーワード
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