2024年09月29日( 日 )

アフターコロナの市民の心を癒す「パブリックアート」の大きな役割!(3)

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画家・造形作家 佐藤 雅子 氏

 ニューヨークはアートの街として2つの点で有名である。1つは、ニューヨークには「メトロポリタン美術館(MET)」「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」など83もの美術館が存在すること。もう1つは、「パブリックアート」の街であることだ。このパブリックアートがコロナ禍の市民の心を大きく癒し、注目を集めていることについて、ニューヨーク在住の画家・造形作家である佐藤雅子氏に聞いた。
 陪席は、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、米国コロンビア大学経営大学院客員研究員として2度のニューヨーク滞在を経験した中川十郎 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長である。

世界のプロ・アマの交流の場、ASL

ロニ―氏 作品
The Great Divide, 1996, 106x46 inches

 佐藤 私の所属するThe Art Students League of New York(以下、ASL)はアマチュアからプロのアーティストまで幅広く受け入れることで知られる、1875年創立の57丁目にある美術学校です。145年以上にわたって、すべての社会的階級の学生に対応するため、柔軟なスケジュールと手頃な価格帯の授業を提供するという伝統を保持してきました。

 フランスなどからの留学生も多く、世界中のアーティストが交わる場となっています。ASLは、マーク・ロスコ氏、ジャクソン・ポロック氏、ジョージア・オキーフ氏、アイ・ウェイウェイ氏など著名なアーティストを輩出しています。日本人では、高村光太郎氏、萩原禄山氏、国吉康雄氏などが学び、国吉氏は教鞭も執りました。私の恩師であるロニー・ランドフィールド氏()は国吉氏の教えも受けたと聞いています。

 アートの街ニューヨークならでは、という風景もあります。ASLからキャンバスを担いで外に出ると、街を歩く見知らぬ紳士から、「今日の作品かい?見せてもらえるかな!」と声がかかります。その場で、買っていただくこともあります。このようにして、市民もアートの街、ニューヨークを応援しています。日本人の多くは絵の購入となると妙に構えてしまい、資産として捉えてしまう傾向が強いと思います。これからお話するパブリックアートにも通じますが、絵画をより日常的に楽しみ、自分を豊かなものにするという観点から捉え直してみると、世界がさらに広がるかもしれません。ASLでは、互いに作品を購入しあったり、交換しあったりと実に楽しい日々を過ごしました。

現代アートで埋め尽くされたエントランス

ロニー ランドフィールド氏
ロニー ランドフィールド氏

 中川 確かに、ニューヨークはアートの街といえます。そして、そのことはビジネスパーソンにとっても大きな意味をもっています。

 私も商社マンとして訪問した企業のエントランスに立ったとき、「誤って、美術館に迷い込んでしまったか」と感じる経験を何度もしており、その迫力に度肝を抜かれたこともありました。たとえば、2階、3階までの高さがある天井の高いエントランスの壁、階段などのすべてのスペースが斬新な現代アートで埋め尽くされていたこともありました。また、社長室に通じる廊下の壁にも現代アートの絵画があり、社長室には現代アートのすばらしい彫刻などが置いてありました。面談する社長の文化度の高さが感じられ、とても好感を覚えました。

 一方、日本の大企業を訪問して同様の感覚を覚えたことはほとんどありません。社長室に有名画家の絵画が飾ってある場合でも、それは資産価値をもつものであり、ダイナミックにアートを楽しみ、享受する姿勢とは少し異なると感じています。

価値観が一致すればビジネスもスムーズ

 中川 ある有名なアメリカの保険会社を訪ねたときに興味深い経験をしました。その保険会社のアメリカ人の社長は、アイヌ、インディアンの研究者で、著書も出版していました。社長室には、著書と関連図書があり、私が日本人だということで、商談の前にアイヌ、インディアンの話を切り出されました。

 このような場合にはその話についていくことができず、「なるほど」「ああ、そうですか」と返事をしていては、商談は進みません。私もインディアンには興味があったので、カナダに行ったときには、木の彫り物を買ったこと、南米に駐在していたときには、ブラジル、コロンビアなどでインディアンの壺を買ったことを話しました。価値観が一致すれば、ビジネスもスムーズに進んでいきます。その社長には、帰り際にサイン入りの著書を進呈いただき、その後も、長く関係が続きました。

 私は得意先の外国の社長や幹部に日本のお土産として、岡倉天心氏の『The Book of Tea』、鈴木大拙氏の『Zen』、新渡戸稲造氏の『Bushido』を持参するのを常としていました。そのなかでも、『The Book of Tea』は日本文化の神髄がよくわかると好評だったことを思い出します。

閉館後も外国からの訪問者に開放

 中川 また、ニューヨークはアートに自信をもっている街ともいえます。米国競争情報専門家協会(現・ 米国戦略・競争情報専門家協会)主催の年次国際大会がニューヨークで開催されたことがありました。3日間の大会を終えて最後の晩餐会の後に、主催者の計らいがあり、すでに閉館になっていたメトロポリタン美術館(MET)に希望者約100名が案内され、当時もっとも注目を浴びていたエジプト館のアブ・シンベル宮殿などの彫刻を特別に鑑賞することができました。

 外国からの参加者はタイトなスケジュールで米国を訪れ、昼間は会議があって美術館、博物館などの見学時間を確保できなかったため、大変喜びました。同国際大会がワシントンで開催されたときは、スミソニアン博物館で同じような便宜を図っていただきました。米国では公共財である美術館、博物館をこのように閉館後も外国からの訪問者に開放して特別に便宜を図っていると、あとで聞きました。日本では、国際会議で外国からの参加者に対して、美術館などが閉館後にこのような便宜を図ることは、ほとんど聞いたことがありません。

(つづく)

【金木 亮憲】

※:1947年生まれ。「現代美術の最前線にいる」アメリカでコンテンポラリーアートを代表する最も優れた抽象画家の1人。カラーフィールド(作品の多くは巨大なキャンバスを使っており、キャンバスの前の観客は身体全体を一面の色彩に包み込まれる)のアートスタイルを得意とする。70以上の個展と200以上のグループ展を開催している。 ^


<PROFILE>
佐藤雅子氏
(さとう・まさこ)
 2014年の香港Asia Fine Art Gallery の「New Year Exhibition」以来、画家/造形作家としての活動を開始。ニューヨークへ移住後、さまざまな展示会の審査に合格し、賞を受賞しながら活躍の拠点を広げる。なかでも、ニューヨーク・マンハッタン区長オフィスアートショー、The Art Students League of New York の栄誉あるブルードット賞、Bronxville Women’s Club での最優秀賞は新聞、ビデオでも放映された。日本では2016年に東京都美術館でのグループ展示会にて入賞をはたし、2017年には新国立美術館、2019年には東京都美術館、2020年は代官山や銀座で出展。マニラ、ロンドン、ワシントンDC、カイロ、香港、そしてニューヨークでの生活を通し、育まれた感性と知覚を活かし、ユニークな色彩感覚と想像力を使い作品をつくり出している。
上智大学新聞学科を卒業後はCitibank に入行、その後、画家・造形作家に転身。現在に至るまで数々のポスターや商品のデザイン、雑誌の挿絵から港区立白金小学校の図書館の壁画なども手がける。ニューヨークの名門The Art Students League of New Yorkのメンバー、MoMAのアーティストメンバー、上智大学ソフィア会文化芸術グループ、現代造形表現作家フォーラムメンバー。

中川十郎氏(なかがわ・じゅうろう)
 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現・双日)入社。海外駐在20年。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師、ハルピン工業大学国際貿易経済関係大学院諮問委員。米国コロンビア大学経営大学院客員研究員。中国対外経済貿易大学大学院客員教授、同大学公共政策研究所名誉所長、WTO-PSI 貿易紛争パネル委員。JETRO貿易アドバイザー。
 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。米国競争情報専門家協会(SCIP)会員。中国競争情報協会国際顧問。日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問。天津市河北区人民政府招商大使、産業発展顧問、世界銀行CSR(企業の社会的責任)コンサルタント。オリンパス(株)特別委員会委員。日本貿易学会元理事。国際アジア共同体学会学術顧問(前理事長)。一帯一路陝西友愛研究所副会長などを歴任。14年に東久邇宮国際文化褒賞を授章。

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