2024年11月22日( 金 )

天然せっけんで新型コロナがほぼ不活化~北九州市の企業との共同研究により確認(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
広島大学大学院医系科学研究科ウイルス学
教授 坂口 剛正 氏

 北九州市のせっけんメーカー・シャボン玉石けん(株)と広島大学が共同研究によって、天然せっけんの成分「オレイン酸カリウム」に新型コロナウイルスをほぼ不活化させる効果があることを確認した。天然せっけんの成分に、なぜそのような作用があるのだろうか。研究を手がけた広島大学の坂口剛正教授に話を聞いた。

実験で証明された圧倒的な抗ウイルス効果

 ――研究を始めたきっかけは?

坂口剛正教授。研究室にて
坂口剛正教授。研究室にて

 坂口 そもそものきっかけは2008年ごろ、シャボン玉石けんさんから、無添加の天然せっけんと合成せっけんでは、抗ウイルス効果にどれほどの差異があるのかを調べてほしいと依頼されたことでした。

 共同研究した結果、オレイン酸カリウムという天然せっけんの成分は、インフルエンザのウイルスを不活化させる効果が大きいことがわかりました。そして昨年、新型コロナが世界的に流行したことを受けて、シャボン玉石けんさんと「新型コロナでも研究してみましょう」という話になりました。

 オレイン酸カリウムは新型コロナに対する抗ウイルス効果も大きいだろうと事前に予想していましたが、実験したら、やはり効果が大きいという結果になりました。

 ――最初に行ったインフルエンザウイルスの研究内容からお聞かせください。

 坂口 オレイン酸カリウムと合成せっけんの2つの主成分をそれぞれ水溶液にしたうえで、培養したヒト型インフルエンザのウイルスと混合して、それぞれの水溶液がどれほどヒト型インフルエンザの感染価(細胞感染性をもつウイルス粒子の数)を低下させるのかを目安に、抗ウイルス効果を測定しました。

 この実験では、オレイン酸カリウムと合成せっけんの2つの主成分はいずれも濃度を高くするほど、ヒト型インフルエンザの感染価を大きく低下させました。そして、成分によって効果に差異が認められました。

 3.5mM(ミリモーラー:濃度の単位)の濃度では、オレイン酸カリウムは感染価を1万分の1以下にまで低下させました。これに対し、合成せっけんの2つの主成分のうち、ラウレス硫酸ナトリウムは感染価を10分の1以下に低下させることもできず、ラウリル硫酸ナトリウムも感染価を10分の1程度にまでしか低下させられなかったのです。
 トリ型インフルエンザでも同様の実験をしましたが、やはりオレイン酸カリウムでは、合成せっけんの2つの主成分と比べて、優れた抗ウイルス効果が認められました。

メカニズムの解明に向けて引き続き研究

 ――では、新型コロナウイルスについてはどのような研究を行ったのですか?

 坂口 実施した内容はインフルエンザの実験と同じです。オレイン酸カリウムと合成せっけんの2つの主成分をそれぞれ水溶液にして、濃度を変えながら新型コロナウイルスの感染価をどれほど低下させるかを調べました。

 その結果、オレイン酸カリウムは新型コロナに対する抗ウイルス効果も、合成せっけんの2つの主成分より大きいことがわかりました。また、合成せっけんの2つの主成分では、ラウレス硫酸ナトリウムよりもラウリル硫酸ナトリウムのほうが、抗ウイルス効果が大きいという結果でした。つまり、インフルエンザの実験と同様の傾向が確認できました(グラフ「石けんの各成分の新型コロナウイルス不活化効果」を参照)。

坂口教授提供の資料を著者が編集。
オレイン酸カリウムは濃度1mMで新型コロナをほぼ不活化させているが、
合成洗剤の2つの成分は濃度1mMでは効果が小さい

 ――オレイン酸カリウムと合成洗剤の2つの主成分では、ウイルスの感染価を低下させるメカニズムが違うのですか?

 坂口 インフルエンザの実験では、合成せっけんの2つの主成分のうち、抗ウイルス効果が比較的小さいラウレス硫酸ナトリウムは吸熱反応を起こしました。電子顕微鏡で観察すると、ウイルスの粒子の表面を覆った膜を攻撃していることがわかりました。一方、合成せっけんの2つの主成分のうち、抗ウイルス効果が比較的大きいラウリル硫酸ナトリウムとオレイン酸カリウムは発熱反応を起こしていました。電子顕微鏡の観察では、ウイルスの粒子の表面にたくさん突出しているタンパク質を攻撃していることがわかりました。膜よりタンパク質を攻撃したほうが、抗ウイルス効果は大きくなるようです。

 新型コロナの実験では、オレイン酸カリウムはインフルエンザの実験と同じく発熱反応を起こすだろうと予想していたのに、吸熱反応を起こすという結果になりました。このメカニズムの違いについては、共同研究者である北九州市立大学の秋葉勇教授(高分子材料化学)にも調べてもらい、解明するつもりです。

(つづく)

【片岡 健】


<プロフィール>
坂口 剛正
(さかぐち・たけまさ)
1987年、名古屋大学大学院医学系研究科修了。2009年から現職。研究分野は医歯薬学、基礎医学、ウイルス学。学外では新型インフルエンザ対策専門家委員会委員、中国四国ウイルス研究会代表幹事などを歴任。20年3月から広島県新型コロナウイルス感染症対策専門員。

(後)

関連記事