2024年12月21日( 土 )

新型コロナと国際保健テーマに日英公開シンポ

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日英の感染症の臨床医や疫学研究者。
=福岡市の「アクロス福岡」国際会議場

 「新型コロナとグローバルヘルス」をテーマにした日英公開シンポジウムが7日から3日間、福岡市のアクロス福岡・国際会議場にて開かれた。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院と提携する長崎大学が主催し、日本医学ジャーナリスト協会西日本支部が共催した。初日の基調講演とパネルディスカッションには、オンラインを含め約1,100人が参加した。

 基調講演とパネルディスカッションを合わせて、日本側から4人、英国側から2人が感染症の臨床医や疫学者の立場から実体験に即して、コロナ対策での反省点や、政府への要望、今後の見通しなどを述べた。主な発言を以下にまとめた。

国立国際医療研究センター病院
大曲貴夫・国際感染症センター長

 「コロナが流行り始めたころ、日本はPCR検査体制が貧弱であり、遺伝子検査が普及していなかった。日本の感染症病床は2,000床で、そのすべてをコロナ感染症対応に回しても足りなかった。一般の医療機関に収容する必要があったが、うまくいかなかった。院内感染への懸念や人手不足で新興感染症への備えが十分できていなかった。

 新興感染症対策には準備と資源が必要であり、社会全体でそのことを確認する必要がある。研究開発の遅れを批判されたが、人的資源もなければ、余裕もない。英国のコロナ治療と同時に効果も研究する姿勢を学ぶ必要がある」

ロンドン大学
ジョン・エドモンズ衛生・熱帯医学大学院教授
(感染症数理モデル)

 「英国の2020年の死亡者は12万人。死亡率も高く、素早いワクチン接種を政府に勧めている。とくに『第1波』で深刻な状況に陥ったが、ロックダウン(都市封鎖)が実効再生産数(感染者1人から何人が感染するかという数)の減少に役立った。英国では、研究者は経済的な話をしないことになっていることが、ロックダウンにつながった。地理的にも的を絞って実施したところ6、7月に感染者数が減ったので、対策を緩和した。人と人の接触が増えて9、10月に『第2波』になった。英国ではすでに30%の人が少なくとも1回目のワクチンの接種を終えている」

ロンドン大学
ピーター・ピオット衛生・熱帯医学大学院学長
(エボラウイルス共同発見者)

 「ワクチン接種は感染予防に大切であるが、医療以外の介入を止めないことが重要だ。それと並行してワクチン接種を進める。エイズウイルスもそうだったが、国際連携が欠かせない。ワクチンを共同調達するCOVAX(コバックス)は重要だ。

 この仕組みで、アフリカのガーナやコートジボアールでは接種が進んだ。ワクチンの有効性がわかる前に調達する仕組みをつくった。事前購入の契約をしているのだ。ワクチンはこれから数年間必要だろう。今後はワクチンの生産拠点を増やす必要がある。EUは『ワクチンサミット』の開催を計画している。日本のワクチン接種は遅れているが、その目途が立ったらCOVAXを支援してほしい。

 コロナ感染の状況は、これからの数カ月間で数年間の展望が決まってしまうだろう。このウイルスは変異を止めない。ワクチンがあっても変異を続けるだろう」

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系
西浦博教授
(前厚労省クラスター対策班員)

 「第1波の時の緊急事態宣言で外出自粛を呼び掛ける際、人と人の接触を80%減らす目標を掲げた。政府や都道府県が外出自粛を要請するたびに接触8割減を訴え、感染のペースは減っていった。接触機会の減少や数理モデルを用いた対策は有効と認められつつある。その半面、自粛の負の側面が注目され、『経済にブレーキをかけている』と批判されて精神的につらかった。日本の外出自粛は、英国のロックダウンに比べると、ずっとマイルドだ。政治家が外出自粛の意味を丁寧に国民に説明していく必要がある」

 8日と9日はオンラインのみで分科会が開催され、世界で初めて抗炎症薬「デキサメタゾン」がコロナ治療に有効と発表したオックスフォード大学のピーター・ホービー教授らが最新の臨床現場の実態などを報告した。

【南里 秀之】

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