2024年11月13日( 水 )

【劇団わらび座特集(1)】「わらび座支援協議会」発足 最大の危機をチャンスに(前)

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 秋田県仙北市の「あきた芸術村」を拠点に、オリジナルミュージカル公演を行う「劇団わらび座」は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で苦境に立たされている。(株)わらび座・代表取締役社長の山川龍巳氏に、わらび座の現状と今後の取り組みについて聞いた。

(聞き手:(株)データ・マックス 執行役員 鹿島 譲二)

コロナ禍の影響で公演の中止・延期が相次ぐ

 ――まず、コロナ禍におけるわらび座の現状についておうかがいします。

(株)わらび座 代表取締役社長 山川 龍巳 氏
(株)わらび座 代表取締役社長 山川 龍巳 氏

 山川龍巳氏(以下、山川) わらび座の劇場がある「あきた芸術村」内の「温泉ゆぽぽ」では例年3月に謝恩会や宴会などの予約が入るのですが、今年はまったくと言っていいほど入っていません。わらび座の劇場公演は、キャンセルが相次いだこともあり、1月半ばから2月末までの休演を余儀なくされました。秋田県はそれほどコロナ感染が拡大しているわけではないのですが、東京や仙台から来られるお客さまが多いことが大きく影響しています。3月1日から公演を再開し、通常100人ほど入場できる小劇場を60人に制限するなど万全の感染対策をとっています。

 コロナ禍の影響で最も痛手を被ったのが、社会活動家の賀川豊彦氏の生涯を描いた舞台が中止となり、北海道の名づけ親・松浦武四郎氏などの公演が大方キャンセルとなったことです。

 コロナ禍やグローバリズムが人間社会に「差別と分断」をもたらしました。しかし、人間がこれまでどのように社会を形成してきたかというと、「力を合わせる」「共感し合う」といった要素を非常に大事にしてきたわけです。賀川豊彦氏の舞台を通じて、失われつつある共助の考え方を皆さんに知ってもらいたいと思っていただけに、今回の中止は残念でなりません。

 また例年4月~6月は、北海道から「教育旅行」で30校ほどの学校が来られるのですが、こちらも昨年に続きキャンセルになりそうです。このように公 演、飲食、宿泊が非常に低迷しており、売上は2019年度比の40%程度になる見込みです。

 ――そうした状況下、3月2日に「わらび座支援協議会」が発足しました。

 山川 fabbit(株)相談役の大村浩次さんが救いの手を差し伸べてくれるかたちで、同協議会が発足しました。昨年3月、御社の取材(Net IB News「【コロナ禍】劇団わらび座が存続の危機~支援の訴え」や地元紙の秋田魁新報の記事で窮状を訴えました。大村さんは、今年3月2日に行った支援協議会のキックオフで、若いころにわらび座公演に取り組んだことがきっかけにもなり、「新婚旅行もわらび座に行きました」とわらび座との関わりを語っていました。わらび座の窮状を新聞記事などで目にされていたのでしょうか、昨年3月半ばに大村さんから「山川さん、大丈夫ですか」という電話がかかってきました。そこで、わらび座を救うためのいくつかの提案をいただきました。fabbitのミッションは、主に若い起業家のスタートアップ支援と中小企業の第二再生支援ですから、ボランティアでお手伝いしますというお話をいただきました。

 当時は眠れない日々が続き、精神的に非常に苦しい時期でした。しかし、大村さんからのアドバイスや提案により、私はもちろん、わらび座内にも「最大の危機を逆にチャンスにして乗り越えていくぞ」という空気が充満していったのです。

 わらび座の再生スキームの参考例として大村さんが挙げてくれたのが、サッカーJリーグ・アビスパ福岡でした。大村氏は2期連続の最終赤字を計上し、債務超過に陥っていたアビスパ福岡の経営を立て直した方だと、そのとき初めて知りました。こうした具体的な成功例を聞くと勇気が湧いてきますね。

 そこから「わらび座応援団」としての支援協議会の設立が具体化していきました。大村さんからは「名誉顧問には『わらび座の魂』を広めていただく語り部となり得る人をお願いしたい」と言われました。そこで東京大学名誉教授で第27代東大総長の佐々木毅先生、教育評論家で法政大学名誉教授の尾木直樹先生、脚本家の内館牧子先生の3名に就任していただいたのです。

 佐々木先生は、わらび座がある秋田県仙北市に隣接する美郷町の出身です。1999年の「第3回北東北知事サミット」をわらび座で開催することに尽力していただき、同サミットで司会を務めるなど、わらび座と大変縁のある方です。佐々木先生からは今回の名誉顧問就任の際に、「この危機をチャンスに変える気構えで前進を!」という大変勇気づけられるメッセージをいただきました。

 「尾木ママ」としても知られる尾木先生は、ドラマ「3年B組金八先生」の主人公・坂本金八のモデルとなった人物といわれています。その尾木先生が、東京都練馬区のある中学校の教諭だったころ、修学旅行でわらび座に生徒たちを連れて来られました。尾木先生は昨年7月25日、NHK仙台放送局制作の「大好き東北 定禅寺しゃべり亭」に出演された際に、東北の魅力の1つとしてわらび座の教育旅行について、約45分の番組内のうち20分ほどを割いて語ってくれました。尾木先生からは就任にあたって、「日本の庶民の心、伝統文化を脈々と受け継ぐ灯を消してはなりません。わらび座は、日本人の命です。子どもたちの希望です」というメッセージをいただきました。

 日本を代表する脚本家である内館先生は秋田市の出身で、わらび座の舞台の脚本をこれまでに数本書いてもらっています。内館先生からは「この先、80年も100年もわらび座が力強く活動できますように。それには人間の力、マンパワーが何よりです」というメッセージをいただいています。

(つづく)

【文・構成:新貝 竜也】


【INFORMATION】
ミュージカル「北斎マンガ」 福岡公演

<開催日時>
2021年6月11日(金)
<開 演>
午後6時30分(開場:午後5時45分)
<会 場>
アクロス福岡シンフォニーホール
(福岡市中央区天神1-1-1)
<チケット>
近日中に開設予定の特設サイトを参照

(1)-(後)

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