2024年11月23日( 土 )

迫りくるガソリン車の終わり:自動車産業を飲み込む地殻変動

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年4月9日付の記事を紹介する。

   世界中で新型コロナウイルスやその変異種が猛威を振るい、経済面での悪影響が深刻化している。その一方で、アメリカでも中国でも億万長者の数は過去最高のペースで増え続けているという。最新の米経済誌「フォーブス」によれば、2021年版の世界長者番付でトップを争っているのはインターネット通販大手アマゾンのジェフ・ベゾス氏と電気自動車テスラや宇宙ロケットスペースXを手掛けるイーロン・マスク氏である。

 気になる日本人の大富豪であるが、残念ながら、トップ10にもトップ20にも日本人は1人もいない。日本人で最高額の所有者はソフトバンクの孫正義氏で、ようやく29位に登場するのみである。もちろん、孫氏はサウジアラビアから資金を調達し、10兆円のビジョンファンドを立ち上げ、今ではスタートアップ企業への投資に力を入れている。最近ではノルウェーのロボティックス企業「オートストア」の株式を40%取得することを発表し、物流やロジスティック分野への関心をアピール。孫氏曰く「金の卵を産むダチョウ」とのこと。今後の展開が楽しみだ。とはいえ、ベゾス氏やマスク氏とはスケールが大きく違う。

 何しろ、2人とも資産額は20兆円に迫り、前年と比べ2倍近い大幅な伸びを記録しているからだ。アマゾンの場合はコロナ禍による巣ごもり需要が追い風となった。また、テスラの場合は地球環境を守るためには化石燃料のガソリンではなく、CO2を出さない電気自動車が効果的とのメッセージ性が富裕層の消費を促している。テスラの場合は生産、販売台数はトヨタの10分の1以下であるが、時価総額で見れば、トヨタの倍以上である。

 要は、高額でも一定の需要があれば、大きな収益を得られるというわけだ。見方を変えれば、超富裕層への富の一極集中が加速しているのである。アメリカの場合、上位1%の家計資産は4,300兆円に達しており、アメリカ人全体の30%を超えている。逆に下位50%の資産は270兆円で全体の2%に過ぎない。ベゾス氏は主に下位の消費者を狙い、マスク氏は上位の富裕層をターゲットにして大成功を勝ち取っているといえる。

 そんな中、モルガン・スタンレー証券が気になるレポートを発表した。それは20世紀をけん引してきた自動車産業の地殻変動を予感させるもの。曰く「従来型のガソリン自動車は2030年には利益を生まなくなる」。要は、電気自動車の時代が間近に迫っているというのである。現時点ではテスラが先行しているが、今後はGMもフォードも全ての車種を35年までにEV(電気自動車)に転換する。ガソリン車は姿を消すことになる。

 同証券が行った機関投資家を対象にした調査でも、こうした新たな流れが明らかになったという。しかも、GMの場合には、アメリカ国内の工場の発電は100%自然再生エネルギーで賄うとの計画を打ち出した。30年が目標年次であるが、世界で稼働させる工場においても35年までには、同様の措置を講じるとのこと。

 トランプ前大統領が「地球温暖化はフェークニュースだ。コロナウイルスも毎年のインフルエンザと変わらない」とうそぶいていた時には、GMも慎重な姿勢を取っていた。しかし、バイデン政権が誕生し、パリ協定への復帰が決まるや否や、温暖化対策へ大きく舵を切ったのである。電気自動車への生産シフトを発表するや、GMの株価は35%も急上昇した。それだけ、投資家や市場の期待がEVに向かっているという証に他ならない。その意味で、長年赤字を続けながらも、電気自動車の製造と改良に取り組んできたテスラのイーロン・マスク氏の先見性は改めて評価が高まっているようだ。

 とはいえ、自信家のマスク氏はこれまでも自身のツイッターで物議を醸すような発信を繰り返してきた。今回もEVブームで初めて黒字を達成したことに気をよくしたのか、「GMを買収するかも」といった冗談半分としか思えない発言も。と同時に、水面下ではトヨタとのEVに関する共同研究と開発に向けての交渉も始めたとの情報も。

 これまで、豊田章男会長は「電気自動車では使われる部品数が半分以下になり、裾野産業が大打撃を受ける。電気自動車へ全面的シフトは日本の自動車産業の首を絞める」と慎重な意向を示してきた。テスラとトヨタはこれまでも部分的な提携話が浮かんでは消えてきたものだが、世界的なEV化の潮流を受け、大転換を余儀なくされることもありそうだ。

 子供の頃から日本の漫画やアニメ映画が大好きで、空手のお蔭でいじめからも身を守ることができたせいか、今では自社工場のあちこちに「DOJO(道場)」の看板を掲げるマスク氏。大の「日本びいき」で知られる。

 実は、アメリカに次いで自社の電気自動車が売れてきた中国において、2週間前から「テスラ車に装着されている車外カメラから情報がアメリカに流出している恐れがあるため、軍や政府機関内への乗り入れを禁止する」との、スパイ容疑をかけられてしまった。マスク氏は必死で否定するが、中国市場でのビジネスの先行きに不安感が広がっているようだ。

 「やはり日本企業と組んで、アジアや世界市場に挑戦したい」との思いが急浮上してきたとしても不思議ではない。これまでもテスラ車のバッテリー電池はパナソニックが提供してきたもの。日本企業との相性は悪くない。トヨタとの今後の交渉の行方が気になるところである。


著者:浜田和幸
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