成功するための身だしなみ「Dress for Success」とは(2)
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Princess Hiromi ファウンダー&デザイナー
島津 洋美 氏服の歴史とは、西洋(ヨーロッパとアメリカ)の衣服および服飾の歴史を指し、そのルーツははるかギリシャ・ローマ時代にまでさかのぼる。そして、日本における本格的な服の歴史はわずか100年に過ぎない。欧米世界では「Dress for Success」という言葉がよく知られており、「成功するための身だしなみ」という意味だ。私たちにどのような知恵を授けてくれるのだろうか。
この言葉が現代にもつ意義について、Princess Hiromiファウンダー&デザイナーの島津洋美氏(ニューヨーク州弁護士)に話を聞いた。陪席は中川十郎・日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。中川氏は商社時代(ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長)にイタリア、フランス、ニューヨークファッションを手がけた。
商社入社3年目にファッションビジネスと出会う
――島津さんと知り合ったきっかけは?
中川十郎氏(以下、中川) 東京経済大学大学院教授時代の2002年に米国コロンビア大学経営大学院に客員研究員として留学した際、同大学院のMBAコース在学中の島津さんと偶然お会いし、ルーツが同じ薩摩ということでその後もご縁をいただいています。私も商社時代にはイタリア、フランス、ニューヨークファッシヨンなどを手がけた経験がありますので、男性目線も含めて議論に参加したいと考えています。
私とファッションビジネスとの関わり合いは、商社に入社して3年目に、イタリア・フローレンス郊外のCottage Industry(屋内工業)の服飾デザイナーが、ハンドバッグなど革製品の売り込みのために来日したことに始まります。
イタリア大使館から紹介されたのですが、服飾デザイナーがイタリア語しか話せないということで、大学でイタリア語を専攻した私に白羽の矢が立ち、海外業務部の上司から商談を任されました。当時たまたま別件で、イタリア・ミラノファッションの婦人服を新宿の某デパートへ売り込み中だったので、婦人服の服飾アクセサリーとして同デパートに取り上げてもらい、商談が成立しました。
欧米で重視される「エグゼクティブプレゼンス」
――洋服とは、欧米人にとってどのような存在であると考えていますか。
島津洋美氏(以下、島津) 私はビジネスを前提に考えた場合、洋服は「相手に対して示す敬意の1つの表現」であると考えています。すなわち、洋服を通して「私はあなたの貴重な時間をいただくに値する人間です」と示すことができます。
権限のない相手にどんなに交渉してもビジネスは進みません。知識がなくて内容が理解できない、あるいは権限がないので上司の許可なく自分では決定できないのであれば、貴重な時間が無駄になります。
一方、自分が貴重な時間をいただくに値する人間であれば、服装を見てすぐにわかってもらった方が相手にとって親切です。このような欧米のビジネスパーソンがごく自然にもつ感覚を日本人の多くが理解できていません。
もちろん、その地域や文化によっても異なります。たとえばハワイであれば、どんなに地位の高い人でもアロハシャツを着ることもありますし、シンガポールでも暑い日はスーツを着ない重役もいます。
しかし、少なくともニューヨーク・ワシントン・ロンドン・パリ・日本などでは、男性であればきちんとした素材のスーツを、女性であればきちんとした素材のスーツやワンピースなどを着こなすことが必要だと思います。それが相手に対する思いやりであるとも思っています。
私はニューヨーク州の弁護士・アソシエートとして、ウォール街のローファームで働いていた経験があります。弁護士の勤務評価の項目にはいくつか種類がありますが、その1つに「エグゼクティブプレゼンス(※)」がありました。エグゼクティブプレゼンスとは、「プロフェッショナル管理職に求められる資質」を表すビジネス用語です。
「会社を代表して発言するに値する人間であるか」について、知識や仕事の能力だけでなく、話し方、清潔感、洋服などの身なりや存在感も含めて、エグゼクティブにふさわしいかが総合評価されるのです。このことはローファーム、コンサルティングファーム、大企業に至るまで常識となっています。
中川 私も島津さんがいわれたエグゼクティブプレゼンスの重要性に同意します。ニューヨーク本社に在勤していたころ、人事部から身だしなみについて次の項目について強くいわれたことを思い出します。
1.ビジネススーツ、ネクタイ、ハンカチーフはビジネスパーソンの評価に影響するので、しかるべき素材のものでそろえ、身だしなみには充分注意を払うこと。
2.時計もビジネスパーソンの評価に値するので、しかるべき価値のものをそろえること。
3.靴はしかるべき素材のものを選び、よく磨き、手入れを怠らないこと。
4.爪はいつも清潔に、頭髪もしっかり手入れして、小ぎれいにしておくこと。
5.ジーンズはオフィス内では履かないこと(当時は労働者の作業着といわれていた)。
6.女性社員は、パンタロンは遠慮してワンピースが望ましい。日本では歴史が浅いことも要因と思われますが、男女とも欧米と比べると洋服の身だしなみに関する認識が甘く、また劣っているように思えます。一時、大臣まで着用し、日本で流行った「省エネルック」などは、おそらく欧米人には違和感をもって受け止められ、滑稽に映ったと思われます。
※:「上に立つ人に求められる資質」を表すビジネス用語。「短時間で人の心をつかみ信頼を得る魅力」、「人を動かす真のリーダーシップ・影響力」、「全身に漂うワンランク上の雰囲気」などの要素による総合的な人間力をいう。 ^
(つづく)
【聞き手・文:金木 亮憲】
<プロフィール>
島津 洋美(しまづ・ひろみ)
東京都出身。ジョージタウン大学卒、ボストンカレッジ法科大学院で法学博士(J.D.)、ニューヨーク州弁護士資格を取得。ウォール街の法律事務所で働く。その後、コロンビア大学経営大学院で経営修士号(MBA)取得。ニューヨークの大手アパレルメーカー・リズクレボーン社で日本担当統括マネジャーとして日本・アジア地域のブランド戦略を担当。経営コンサルタントの傍ら、ニューヨークと東京でテキスタイル、立体裁断、デザインについて各分野の第一人者に師事。2011年Princess Hiromi創業。デザイナーとして、国際感覚をもつ知的で女性的な「個性を魅せる服」を創り出している。駐日スウェーデン大使館からの日本起業家賞、DELLグランドブレイカー賞など多数。著書に共著 「カラーセオリー イン ショップ」(日本実業出版社)がある。
中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授など歴任。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、米国競争情報専門家協会(SCIP)会員、中国競争情報協会国際顧問。2014年東久邇宮国際文化褒賞を授章。関連記事
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