オーラルフレイルを防ぎ、全身の健康と美容を守る“舌の力”活用法
舌は筋肉の塊であり、鍛えることで体幹トレーニングにもつながります。舌の動きが鈍ると、顎関節の可動域が狭まり、血流が悪化する恐れがあります。車にたとえるなら、舌はエンジン、顎関節はタイヤ。エンジンがしっかり動かなければ、スムーズな走行はできません。この連載の第3回では、誰でも簡単に始められる「舌回しトレーニング」を紹介し、舌の力を高める方法を解説します。
舌トレーニングの効果
舌を動かすことで舌圧(舌の筋力)が向上し、血流や体温の上昇を促します。研究によると、舌圧の強化は握力や全身の筋力に良い影響を与え、健康寿命の延伸に寄与する可能性があります(日本老年医学会、2023)。
また、舌の動きは唾液腺を刺激し、成人が1日に約1.5L分泌する唾液を促進します。唾液は免疫力の向上や口腔内の細菌抑制に役立ちます。舌圧が弱いと口が開いてしまい、唾液が乾燥してその効果が低下するため、しっかり鍛えることが重要です。
実践!簡単「舌回しトレーニング」
以下の3つのトレーニングで、舌の筋力と可動域を高めましょう。道具は不要で、1日5分程度で十分です。鏡を見ながら行うとより効果的です。
1. 舌圧を高める
舌圧を高めると、血流が改善し、体温が上昇します。
- 口を閉じ、舌の先で下の歯の表面をなぞるように左右に10往復動かします。
- 慣れたら、舌で左右の頬の内側を軽く押しながら上下に5往復動かします。
- 舌を上の前歯の前側(口腔前庭)に置き、時計回り、反時計回りにぐるぐる5回ずつ動かします。
2. 舌の可動域を広げる
舌の可動域が広がると、顎の動きがスムーズになります。
- 口を軽く開き、顎を左右にゆっくり5回ずつ動かします。舌をリラックスさせ、顎の動きに合わせて自然に動かすイメージです。
3. 舌小帯のストレッチ
舌小帯(舌の裏の筋)を伸ばすことで、舌の柔軟性が向上します。
- 舌の先を上の前歯の裏側に当て、口を軽く開きます。声を出さず「タ、ラ、タ、ラ」を10回繰り返し、舌をしっかりストレッチします。
舌トレーニングの効果を最大化するには、鼻呼吸が欠かせません。口呼吸は口腔の乾燥を招き、細菌の増殖を促します。舌の先を上の前歯の裏側に当て、唇を閉じて鼻からゆっくり呼吸しましょう。お腹の中心(丹田)を意識すると、体幹も鍛えられます。
舌トレーニングは、歯磨き後やテレビを見ながらの「ながら時間」に取り入れるのがおすすめです。肩甲骨や股関節と同じく、舌の可動域が狭いと不調の原因になります。毎日少しずつ動かすことで、柔軟性と筋力が向上します。
舌回しトレーニングは簡単で効果的です。舌圧や可動域を高め、唾液分泌を促すことで、全身の健康をサポートします。まずは1日5分、3つのステップを試してみましょう。次回は、舌圧と握力の関係をさらに掘り下げ、健康寿命との関連性を解説します!
歯科医師 大村豊(おおむら・ゆたか)
1964年3月23日福岡県柳川市生まれ。福岡歯科大学卒業後、大学院で舌の発生学を研究。2002年10月に福岡市百道浜で大村歯科クリニックを開業し、予防歯学を重視した診療を展開。オーラルフレイルに早期から着目し、独自の口腔機能向上プログラムを通じて患者の生活の質向上を図る。現在も「口の健康が全身を支える」という信念のもと、研究と臨床の両面から口腔ケアの重要性を訴え続けている。