2024年12月23日( 月 )

福島原発事故、アルプス処理水を海洋放出して良いのか~報道では語られない諸問題と私の提案(2)

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福島自然環境研究室 千葉 茂樹

福島県知事 内堀雅雄氏の発言問題

 福島県知事の内堀雅雄氏は4月15日、ALPS(アルプス)処理水の海洋放出に関する記者の質問に対し「福島県自身が『容認する』『容認しない』という立場にあるとは考えていません」と発言した。内堀氏は、福島県民の代表者であるにもかかわらず、福島県民の立場ではなく、政府・東電の立場に立って発言したとしか思えない。筆者は、内堀氏が「福島県民はこう考えているから、政府・東電はこうしてほしい」と発言すべきであり、立ち位置を誤っていると考えている。

「処理水」とは何か。ALPS(多核種除去設備)の問題~本当に処理されているのか

福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏
福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏

 ALPS処理水という言葉は字面から見ると、「適正に処理されたきれいな水」と思われるが、はたしてそうだろうか。

 福島第1原発事故では、総電源喪失により原子炉圧力容器内を水で冷却できなくなり、内部の核燃料が自ら発する熱で溶け出し(メルトダウン)、周辺の金属と交じり合って合金(核燃料デブリ)をつくった。この核燃料は、原子炉格納容器にまで溶け出し(メルトスルー)、その後、冷却機能が回復して「冷温停止状態」となった。

 この「冷温停止状態」とは、政府が苦し紛れにつくった「造語」だ。「冷温停止」という言葉があるが、これは原子炉がコントロール下にある状態を指す。一方、今は核燃料デブリに大量の水をかけて、何とか冷やしており、原子炉がコントロール下にある「冷温停止」とは到底いえない状態だ。「状態」という語句をくっつけて誤魔化(ごまか)しているのだ。

 1時間あたり3~4トンの核燃料デブリにかけている冷却水(2021年現在)、さらに原子炉格納容器の割れ目から大量の流れ込んでいる地下水が混じり、「汚染水」となっている。

 原子力資料情報室によれば、汚染⽔の処理では、放射性物質62種類を対象としているという。前処理として、セシウムとストロンチウムを除去装置「サリー」および「キュリオン」で分離した後、淡⽔化装置で塩分を分離した処理水を多核種除去設備ALPS(アルプス)で処理している(詳細はこちら)。

 ALPSは放射性物質を多種多様のフィルターを使って取り除く装置(詳細はこちら)であるが、フィルターに放射性物質が吸着するため、フィルター自体を20日程度で交換しなくてはならない。また、放射能汚染の法的な限度は1Lあたり約6万ベクレルである一方、処理した水には、トリチウムが1Lあたり約160万ベクレル(※1)と極めて高い値で残存し、ストロンチウム90、ヨウ素129などの他の放射性物質も法的な限度の濃度を超えているものがある。

 上記の法的な限度とは「特定原子力施設への指定に際し東京電力(株)福島第一原子力発電所に対して求める措置を講ずべき事項」(平成24年原子力規制委員会決定)によるものだ。汚染水の濃度限度(最高値)とは、「放射性物質1種類が入った水を、ある人が0~70歳まで毎日飲み続けたときの年平均値(放射線の総量を70歳で割った量)が1ミリシーベルト(※2、1年間の実効線量限度、被爆限度量)になる汚染水の濃度」を言う。つまり、この汚染水を毎日(1.40~2.65L、年齢により飲む量が異なる)飲んで、毎年1ミリシーベルトの被曝になる汚染水の濃度を「汚染水濃度の法的限度」と言う。

(つづく)

※1:ベクレルとは、物質が放射線を出す能力およびその量。一般に「放射能」といわれる。放射能は、能力のため、物体のように移動はせず、たとえば「放射能が空から降ってきた」という表現は明らかな間違いだ。 ^

※2:シーベルトとは、放射線が人体に与えるダメージの量。 ^


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

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著者の論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
 原発事故関係の論文
 磐梯山関係の論文

この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。

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