2024年11月23日( 土 )

福島原発事故、アルプス処理水を海洋放出して良いのか~報道では語られない諸問題と私の提案(3)

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福島自然環境研究室 千葉 茂樹

トリチウム

 水は「水素原子2個と酸素原子1個が結合した分子」であり、そのうちの水素原子は「原子核に陽子が1個あり、その周りを電子1個が回っている」ことは、よく知られていることだろう(図はこちら。水素

 通常の水素原子は「原子核に陽子が1個だけ」であるが、この原子核に中性子が1個加わると「重水素、デューテリウム」になり、中性子が2個加わると「三重水素、トリチウム」になる。

 トリチウムは放射性物質で、半減期(その半数が分解するのに要する時間)は12.32年で、ベータ線(電子、放射線の一種)を出しながらヘリウムへと変化する(ベータ崩壊)。このときに出るベータ線が、人体などに悪影響を与える。

 トリチウムは、大気上層中で宇宙線中の中性子と窒素原子核との衝突でできるものであるが、第2次世界大戦以降、大気中の核実験によりトリチウムの量が急増し、従来の約200倍に達した(詳しくはこちら)。また、トリチウムは、通常の水と一緒に「トリチウム水」として人体に取り込まれるため、体重60 kgの人では体内に50ベクレル(放射能)程度のトリチウムがある(詳しくはこちら)。

トリチウム「水」

 このトリチウムが、水分子H2Oの「通常の水素原子H」と置き換わったものが「トリチウム水」だ。性質は、通常の水と変わらないが、中性子2個分重いことと、ベータ線を出す点は通常の水と異なる。そのため、通常の水とトリチウム水は同じような性質で、加えて交じり合っているため、汚染水からトリチウム水だけを取り除くのは難しい。

 「2015年、キュリオン社がトリチウムの分離技術を開発した」との記事について、グリーンピースの『東電福島第一原発 汚染水の危機2020』では、政府および東電は「コストがかかることからキュリオン社のトリチウム分離技術を採用しなかった」と指摘している。

トリチウム水の生体内の挙動

福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏
福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏

 トリチウム水は、生物の体内に入ると、通常の水のように動く。これについては、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構による説明を、以下にまとめる。

 飲料水や食物から摂取されたトリチウム水は、消化管からほぼ完全に吸収され、また呼吸によって肺からも取り込まれる。体内に取り込まれたトリチウムは、24時間以内に体液中にほぼ均等に分布する。問題は、「有機結合型のトリチウム」だ。

 生物体は、骨以外はタンパク質・糖・脂肪など(有機化合物、簡単にいうと炭素・水素・窒素などの化合物)からできていて、これら有機化合物にトリチウムが入り込んだ物質を「有機結合型トリチウム」という。これは有機化合物のため、水のようには排泄されず、体内に長くとどまる傾向がある。

 生物学的半減期(摂取量の半分が生体内から排出されるのにかかる日数)は、経口摂取した「トリチウム水」の場合が約10日であるのに対し、有機結合型トリチウムの場合が約30日〜45日とされる。この間、トリチウムから出る放射線のβ(ベータ)線によって「内部被曝」する。さらに、長期間にわたって低濃度のトリチウムを取り続けた場合、長期間、内部被曝する。

 あくまで極端な例ではあるが、トリチウム夜光塗料を仕事で使っていた1960年代のヨーロッパの職人の例を挙げる。この職人は、トリチウム入りの塗料を筆につけ、筆先を舐めて時計の文字盤に塗っていたが、この舐める行為により、トリチウムを体内に取り込み続けた。尿中のトリチウム量から被曝線量は3〜6シーベルトと推定される。症状としては、全身倦怠、悪心、その後の白血球減少、血小板減少が起こり、汎血球減少症が原因で死亡した。

(つづく)


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

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著者の論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
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この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。

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