2024年12月23日( 月 )

福島原発事故、アルプス処理水を海洋放出して良いのか~報道では語られない諸問題と私の提案(4)

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福島自然環境研究室 千葉 茂樹

放射性炭素14C問題

 グリーンピース「東電福島第一原発 汚染水の危機2020」の14ページでは、汚染水に含まれる放射性炭素14Cの問題を取り上げている。この件は、次の項目「放射性炭素14Cの生体内での挙動」で述べる。また、同15ページでは「東京電力は、2020年8月27日になって、ALPSで放射性炭素14Cが取り除かれていないことを認めた」と指摘している。東電もHPの3ページで認めている。この事実は、海洋放出されようとしているALPS処理水に「放射性炭素14Cが残存する」ことを意味しており、極めて重要なことだ。

 トリチウムと放射性炭素14Cの生体内での挙動については、産業医科大学の馬田敏幸氏の論文を参照してほしい。

放射性炭素14Cの生体内での挙動(内部被曝)

 放射性炭素14Cの挙動は深刻だ。人間の体は、骨以外は有機化合物(炭素Cを骨格とする化合物)からできている。炭素には結合する腕が4本あり、腕が立体的に伸びているが、この4本の腕に、腕が1本の水素や2本の酸素、3本の窒素がくっついている。この有機化合物の骨格にある炭素が放射性炭素14Cに置き換わった場合、生体に組み込まれているため、体外への排出が困難となり、内部被曝が長く続く。放射性炭素14Cの生物学的半減期(体内に取り込んだ量の半分が排出される日数)は約40日と言われているが、有機化合物に入り込んだ放射性炭素14Cが、尿から排出されてなくなるまで約400日かかる(詳細はこちら)。

 さらに問題なのは、人間が食物連鎖の頂点(最終段階)にいることだ。生物体を構成する物質は、骨を除くと、有機化合物(炭素の化合物、炭水化物・タンパク質・脂質など)だ。放射性炭素14Cは、微生物・植物から小動物・小魚、そして大型動物・大型魚と濃縮されながら、最終的にヒトの体内に入り、その間、どんどん高濃度になる。これは放射性炭素14Cだけの問題ではなく、農薬などでも同じことであり、海洋放出では、この点も問題となる。

 放射性炭素14Cは、半減期(個数が半数になる時間)が5730年のため、放射性炭素14Cが人の体内に入るとベータ線を出しながら窒素に代わる。このとき、体内では「内部被曝」が起きる。また、この時、放出されるベータ線のエネルギーはトリチウムより大きいため、体へのダメージが大きい。

福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏
福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏

 また、人体の設計図DNA(遺伝子)にもタンパク質(ヒストン)が存在し、このタンパク質の構成炭素が放射性炭素14Cに置き換わった場合、DNA(遺伝子)がベータ線で傷つく。傷ついたDNAが修復できなくなると、アポトーシス(細胞自死)が起きる。

 たとえば、体内でDNAのコピーミス(体の中では、いつでも細胞が入れ替わっている)で異常細胞が生じると、通常はアポトーシス(自死するプログラムが発動)が起きて異常細胞は死に、ガン化を防ぐ。しかし、被曝などでアポトーシスが大量に起きて細胞死が全身におよぶと、ヒト自体が死亡する。「トリチウム水の生体内の挙動」という項目で書いたヨーロッパの職人の死は、体のいたるところで起きたアポトーシスによるものだ。

 放射性炭素14Cは自然界にも存在し、体の中にも微量であるが存在する。また、大気中の放射性炭素14Cは、米ソ中などの大気中核実験により、1965年頃にはそれ以前の約1000倍に増加した(詳しくはこちら)。

(つづく)


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

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 【東日本大震災から10年(2)】福島第一原発事故から10年、放射性物質汚染の現状 公的除染終了後の問題

著者の論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
 原発事故関係の論文
 磐梯山関係の論文

この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。

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