2024年12月22日( 日 )

福島原発事故、アルプス処理水を海洋放出して良いのか~報道では語られない諸問題と私の提案(5)

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福島自然環境研究室 千葉 茂樹

ALPS処理水の海洋放出~海はゴミ捨て場か

 世界の原発から毎日、処理水が海洋および大気に放出されています。トリチウムの海洋放出の量は、例を挙げると、韓国・月城原発約136兆ベクレル(2016年)、フランス・ラ・アーグ再処理施設約1京3,778兆ベクレル(15年)、イギリス・セラフィールド再処理施設、約1,624兆ベクレル(15年)、カバダ・ダーリントン原発、約495兆ベクレル(15年)だ(詳細はこちら)。福島第1原発事故で大気中に放出された放射性物質の量は、原子力安全委員会(11年8月22日発表)によれば57京ベクレルだ(Wikipediaより)。

 このように世界の原発からは、原発事故でもないのに、大量の原発のゴミが垂れ流されている。大気や海は、広大に見えるが、核のゴミを世界各国で少しでも放出すると塵も積もれば山になる。その証拠に、1945年以降、地球環境では、放射性炭素14Cやトリチウムの濃度が高くなっている。このような、将来にツケを残す方法で良いのだろうか。

私の提案

福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏
福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏

 筆者は、ALPS(アルプス)処理水の海洋への投棄は「反対」だ。自然環境中に人工物を廃棄すべきではない。しかし、政府・東電が「取り返しのつかない馬鹿な事」をしてしまった以上、汚染水は溜まり続けてどうしようもない状態になっており、「ただ反対」では済まされない。

 筆者は妥協案として、まず、現在の放射性物質除去技術の粋を集めて「汚染水の徹底的な浄化」をすべきと考えている。たとえば、トリチウムは、キュリオン社やヴェオリア社の「モジュール式トリチウム除去システム」を導入して可能な限り除去する方法だ。発想を転換すると、「微生物」「植物」による除去も有効と考えているが、ALPSだけに頼って、汚染水を10年も溜めてしまったため、おそらくこれでも間に合わないだろう。

 次に、放射性物質を可能な限り除去した水を海洋に投棄する。これもロンドン条約の縛りがあり、公海には流せないため、たとえば、深海調査船「しんかい6500」などの技術で、陸上から太いパイプを可能な限り、深海まで伸ばして投棄する。海面から「表水層」「躍層」「深水層」となるため、「躍層(深度約500m以下)」より下に投棄する。各層間には境界面があり、混じりにくくなっており、トリチウムの半減期が12.32年のため、85年で残存するトリチウムは1%程度になる。このように封じ込めれば良い。

 次に、漁民への対応だ。現在、「風評で魚が売れなくなる」と問題になっているが、水俣病(メチル水銀汚染)問題では、原因企業の「チッソ(株)」が水俣湾で漁民が獲った魚を全量買い上げたように、原因企業の「東京電力」が漁民の獲った魚を全量買い上げれば良い。

 東電は、戦前には満州国にあった資産の大半を敗戦ですべて失ったチッソより、はるかに大企業だ。さらに、たとえば4月13日、麻生財務相は「(浄化水)を飲んでも何でもない」と発言したように、政府・東電が「魚は安全」と主張するなら、政府・東電関係者で率先して消費すれば良い。ちなみに、水俣病問題では、チッソに買い上げられた魚は全量処分された。

(つづく)


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

データ・マックスの記事
 「徒歩の調査」から見た福島第一原発事故 被曝地からの報告
 福島第一原発事故による放射性物質汚染の実態~2019年、福島県二本松市の汚染の現状と黒い土
 福島第一原発事故から10年~今も続く放射性物質の汚染
 【東日本大震災から10年(2)】福島第一原発事故から10年、放射性物質汚染の現状 公的除染終了後の問題

著者の論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
 原発事故関係の論文
 磐梯山関係の論文

この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。

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