2024年12月28日( 土 )

火災保険損害認定の闇~異なる鑑定会社で再取得価額の見積もりが同額(前)

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 地震保険をめぐって保険会社が被害を低く見積もり支払額を抑えていた実態があったが、被害を受けた建物の所有者が提訴し、保険会社が非公開としていた鑑定基準用の存在が明らかになった画期的な判決について、以前Net IB News で報じた。
リンク: 「地震保険裁判において画期的な判決!非公開の基準表の存在を保険会社が公式に認める~被災者が勝訴(前)

 火災保険でも同様に保険金の支払いを低く抑える事例が明るみになり、青森県の賃貸住宅所有者が共済団体を相手取った訴訟の第1回口頭弁論が、3月15日に東京地裁で開かれた。

共済金1,880万円と臨時費用共済金200万円の支払いを求め提訴

 火災保険の損害認定に関する裁判の原告Aは、青森県内で親から相続した一戸建住宅を賃貸している賃貸人(大家)。被告Bは、賃貸人のAが加入する火災保険を扱う共済団体。

 2018年12月1日、賃借人の不注意により火災が発生。原告Aはこの年の12月28日、自身が加入していた共済団体B(被告)に共済金を請求した。

 訴状によると、契約では、建物・家財について火災による焼破損害が発生した場合、焼破損の割合・状況に応じて共済金が支払われることと規定されていた。また、建物が火災などにより70%以上を焼破損した場合には、建物が全焼損に至ったとみなし、共済金の全額を支払うこととされていた。

 原告Aが火災による原状回復費用を調査するため、建築住宅会社に見積もりを依頼したところ、金額は1,790万2,080円(税込)だった。これに対し、共済団体B(被告)は依頼した鑑定会社が見積った金額920万1,176円(税込)を提示したため、約2倍の開きが出ていた。

 前述の通り契約では、焼破損契約の基礎となる「建物」の価格は、保障金額である1,880万円と措定し、その70%にあたる1,316万円を超える損害が発生した場合は全焼損扱いとなる。本件も焼破損の割合は70%を超えており、共済金の全額分、すなわち1,880万円と臨時費用共済金200万円の合計2,080万円の支払いを求めている。

再取得価額と時価方式

火災保険の保障には大きく分けて「再取得方式」と「時価方式」があり、「再取得方式」(=新価方式)では事故発生日に同じ物を新たに手に入れようとしたときにかかる金額(再取得価格)が支払われる。

これに対して「時価方式」では保険料が割安になるが、再取得価格から年数経過による減価を差し引いた金額が支払われるため、万が一の場合、住宅再建が難しくなる可能性が高くなる。1990年代までは火災保険は「時価方式」が主流であったが、現在は住宅再建が可能な「再取得方式」が主流となっている。


2社の再取得価額の見積もり、1円単位まで一致

 被告の共済団体Bから依頼を受けた鑑定会社D社は火災の被害状況を調査し、19年5月31日に共済団体Bに報告した再取得価額の見積もりは920万1,176円だった。

 火災を起こした住宅の賃借人も保険に加入(損害保険会社C社)しており、こちらも損保会社C社から依頼を受けた鑑定会社E社が被害状況を調査している(E社の再取得価額の見積もり額は920万1,176円)。

 問題となった点は、損害の再取得価額の見積もりが、原告賃貸人Aが業者に見積もってもらった金額と、共済団体Bが依頼した鑑定会社D社による再取得価額の見積もりに大きな開きがあったこと。さらに、その鑑定会社D社の見積もりと 賃借人側の損保会社C社が依頼した鑑定会社E社の再取得価額の見積もりが、1円単位まで同じ金額であったことだ。

 原告Aが原状回復費用の調査を依頼した業者による見積もりと、共済団体Bによる再取得価額の見積もりに大きな差があるのは、支払う共済金を低く抑えたいという共済団体Bの方針による可能性も考えられる。

 また、原告Aは「共済団体Bは全損扱いになると共済金が多くなるため、焼破損の割合が70%未満となるように計算式の分母を操作している」と話している。

 さらに、共済団体B側の鑑定会社D社と、賃借人側保険会社Cが依頼した鑑定会社E社の再取得価額の見積もりが、1円単位まで同額(920万1,176円)となっていることから、鑑定会社D社とE社との間で金額のすり合わせがあったと考えることができる。損害調査報告書の内訳を見ると、個々の工事金額に違いがあるにもかかわらず、なぜか合計金額は1円単位までまったく同じ金額となっている。

 一般的にシステムキッチンやユニットバス、トイレなどは同じメーカーの製品であれば定価や掛け率が決まっていると考えられるが、内装用のボードなどは歩掛が業者によって違うのが普通であり、工事手間の費用も業者によって異なるはずである。

 中古建物については、再取得価額を算出する一律の基準が存在しないことはいうまでもない。実際に、鑑定会社D社とE社の内訳はすべての項目で金額が異なっている。ところが、なぜか合計金額はまったく同じ920万1,176円となっている。

(つづく)

【桑野 健介】

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(後)

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