2024年11月22日( 金 )

ワクチンとダム水没水死リスク

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「ワクチンは、ある程度の人数の国民が副反応で死亡しても、社会全体としてコロナ感染リスクが減少すれば、社会全体、政治権力者にとってプラスとされている」を訴えた4月28日付の記事を紹介する。

GWの人流拡大を抑制するために緊急事態宣言を発出するなら、実効性のある方法をとるべきだ。
重大な問題が3点ある。

第1は首都圏で東京都を緊急事態宣言対象にしたが隣接3県を対象外にしたこと。
第2は感染が拡大している大都市圏から他県への人流を抑制しないこと。
第3は観光業界と癒着する首長が他県から人を呼び込む巨大イベントを自粛しないこと。

首都圏での感染拡大を警戒するなら1都3県に同等の措置を講じなければ効果が上がらない。

関西圏では大阪府、兵庫県、京都府の3府県が緊急事態宣言の対象にされた。
しかし、奈良県が除外された。
その奈良県がGoToイートの割引食事券の追加販売を強行した。

大阪府のUSJは休業する。
しかし、千葉県浦安市の東京ディズニーリゾートは営業を継続する。
巨大遊興施設の入場人員上限を5,000人にすると報じられているが、販売済チケットは規制の対象外とされるため、TDRの2つのパークの入場者数はそれぞれ2万人になる可能性が高い。
2つのパークで4万人の入場を容認することになる。

東京都で開催されるプロ野球ゲームは無観客で実施され、東京都から川1つ隔てたTDRが連日4万人を集客することになる。
TDRに入場する人々は平均で2回の会食を行う可能性が高い。
大規模イベントの無観客開催、入場人員上限制限を強化する狙いは、会話を伴う会食機会を抑制することにある。

プロ野球などはスタジアム内部での感染対策を講じているから有観客開催を求めたが、大規模な人流が生じれば、連動して多人数での会話をともなう会食機会が増大すると考えられるから、無観客開催が求められる。
TDRが連日4万人を集客して1人平均2回の会食が行われれば、感染拡大のリスクは極めて高くなる。
政府が本気で感染抑制を考えるなら、感染対策の実効性を考慮しなければ意味がなくなる。

首都圏4知事は、GW期間中に首都圏4都県への来訪をしないよう呼びかけるが、日本全国の市民は、首都圏、関西圏、中京圏からの人流拡大を警戒している。
各県知事は県境を越えての来訪をしないよう要請すべきだが、この要請を行っている知事が極めて少ない。
県民に対して、県境を越えての外出を控えるように呼びかけるが、他都道府県の住民に対して、来県をしないよう呼びかけない。

県内の観光業界と癒着する知事が多い。
観光業界と癒着する知事は、県内における感染抑制よりも、県内の観光業者の利害を優先する。
そのために、他都道府県からの来県自粛要請を行わない。
航空会社等の予約状況はコロナ前比で半減だが、昨年比では4倍から5倍水準に跳ね上がっている。

他都道府県からの来県自粛を要請することは、県内の感染抑制に有効だが、観光業界は難色を示す。
結果として大都市圏以外の各県での感染拡大が促進される可能性が高い。

仄聞するところによると石川県は6月初旬に百万石まつり開催を予定しているという。
準備会議では、コロナ感染がステージ2に移行した場合には一部行事中止、ステージ3に移行した場合には全行事中止の方針を定めたとのこと。
この方針決定後に感染が拡大し、ステージ2に移行した。
一部行事の中止が決定された。

その後、感染状況はステージ3に移行した。
事前の取り決めで全行事の中止を決定しなければならない状況だが、石川県も金沢市も中止決定を先送りしているようだ。

感染抑制と経済活動維持との間にはトレードオフの関係があるが、日本の1年2カ月の経験は
「二兎を追う者は一兎をも得ず」
を鮮明に示している。

感染を抑制すべきときに、しっかり抑制しないと、緊急事態宣言の繰り返し発動が迫られる。
GWのコロナ感染拡大を防止するために対策が講じられているが、中途半端さが半端でない。
これでは感染を抑止することは困難と考えられる。
逆に日本全国に感染が拡散される可能性が著しく高まっている。

現状で最優先すべき対応は五輪の中止決定だ。
コロナ感染対策としての緊急事態宣言を発出したまま五輪聖火リレーを強行することは日本政府の錯乱を物語る。

日本のワクチン接種進捗は世界のなかで最低レベル。
五輪に間に合わないことは確定している。

政府がコロナ病床確保の実績を積み上げてこなかったために、医療逼迫、医療崩壊が現実化している。
宿泊施設での療養を強いられているコロナ感染者に、必要十分な医療が提供されない事態が発生している。
この状況下で五輪に回す医療機能の余裕は存在しない。

丸川珠代五輪担当相は東京都が具体策を示さないとクレームを公表したが、東京都と綿密に連絡を取り、問題を解決するのが五輪担当相の責務。
連絡を取ることもせず、国民に向かって東京都へのクレームを表明するような人物が五輪担当相を務めていることが驚きだ。

日本政府の機能がマヒしている。
機能不全の政府に「安心・安全の五輪」を開催できるわけがない。
五輪開催を断念して、コロナ感染抑制に全力を上げるべきだ。

感染抑制と感染推進の間で右往左往を繰り返すことが最悪。
「後手後手・小出し・右往左往」
の菅コロナ三原則を払拭しない限り、コロナ問題克服はない。

コロナ被害が巨大な国・地域ではワクチン接種進展が大きな状況変化を引き起こしつつある。
ワクチン接種は短期的には一定の有効性を発揮すると考えられる。

しかし、新種ワクチンのリスクは未知数だ。
「mRNAワクチン」「ウイルスベクターワクチン」のリスクは未確定である。
重大な副反応が引き起こされるリスクを排除できない。

実際に死亡事例は多発している。
日本国内でも死亡事例が報告されている。
しかし、因果関係を立証することは容易でない。
「因果関係が客観的に立証された」ことにならない限り、「因果関係は不明」で処理されてしまう。

ワクチン推進勢力は「リスクとメリットを比較したときに、メリットが上回る」と説明する。
このときの「リスク」と「メリット」の主体が誰であるかに十分な注意を払う必要がある。

「リスク」は個人が負うもの。
「メリット」は社会全体、あるいは政治権力が得るものだ。

ある程度の人数の国民が死亡しても、社会全体としてコロナ感染リスクが減少すれば、社会全体にとってはプラス、つまり、政治権力者にとってプラスということになる。
たとえていえば、巨大なダムでいくつかの集落を水没させることのリスクとメリットと似たものだ。

ダムを満たす際に水没する集落に通知しない。
どの集落が水没して人命が失われるかは事前に知らされない。
しかし、ダムを作動させてしまえば、水害を防止する社会的なメリットが生じることになる。
しかし、そのために、いくつかの集落の住民は水死し、生活が破壊される。
自分が水死するリスクがあるなら、ダムに水を満たす必要はないと考える人が出るのは自然なことだ。

東アジアのコロナ被害は限定的。
現時点でもなお、高齢でない健常者が重篤化するリスクは限定的。
このとき、高齢でない健常者がリスクのあるワクチンを接種する合理性はない。

ワクチンよりも特効薬の開発を推進すべきだ。
治療薬とワクチンでは市場規模に天と地の開きが出る。
ワクチンでの巨大利益を確保するには、治療薬でなく、ワクチンの全世界接種が必要なのだ。

日本で国民全員にワクチンを接種する合理性は存在しない。
ワクチンでなく、感染抑制をコロナ対応の基軸に置くべきだ。

整合性のある政策対応を実行するためにも、まずは、支離滅裂の極みを生み出す基本背景になっている東京五輪にけじめをつけるべきだ。
直ちに東京五輪中止を決断すべきだ。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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