自動車業界、車載半導体不足が深刻化(後)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏
世界的な半導体不足を背景に、自動車に必要な「車載半導体」の需給がひっ迫。生産工場の操業停止を余儀なくされるなど、自動車業界に深刻な影響が出ている。米国・日本・韓国などの各国にとって、車載半導体の安定調達は重要課題であり、その対応に追われている。
半導体不足の原因とは
昨年の上半期は新型コロナウイルスが猛威を振るい、欧州でロックダウンが敷かれるなど、各国は対応に追われ、自動車の生産は大きく落ち込んだ。その半面、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で在宅勤務が広がり、世界中でパソコン需要が急増した。そこに昨年末から自動車販売も回復に向かい、IT分野と自動車分野で半導体を取り合う状況となった。
半導体の製造には莫大な投資がともなうため、半導体を設計する会社と、半導体を受託生産する会社にわかれている。受託生産会社としては、台湾のTSMCと韓国のサムスンなどがある。たとえば、車載半導体の代表格であるマイコンの場合、自動車1台に40個くらい搭載されるが、その世界シェアの70%はTSMCで生産されている。
しかし、世界シェア70%といっても、マイコンが同社の売上高に占める比率は5%に過ぎない。車載半導体は価格が安く、高い技術力を要求されるものではないからだ。コロナショックでIT需要が増加し、半導体の需給がひっ迫しているなかで、自動車需要の落ち込みにより、生産現場では車載半導体のラインを別のIT部門に切り替えていった。車載半導体が不足してきても、切り替えたラインをすぐ元に戻すことはできない。
このようなことが原因で、車載半導体が不足するようになった。半導体不足によるクルマの減産は半年くらい尾を引くとみられ、その損失は6兆円に達するという見方も出ている。
今後の対応策は?
米国など各国では台湾のTSMCに車載半導体の増産を要求するなど、その対応策を練っている。しかし、ほかの半導体と違って、車載半導体の開発や生産に取り組もうとする企業は少ない。車載半導体の場合、高い耐久性と信頼性が要求されるからだ。
自動車は走行時にエンジンの過熱などで温度が100℃以上に上昇したり、反対に冬場には、地域によってはマイナス数十度まで気温が下がったりする。パソコンなどのように室内で使う機器と違って、自動車の部品にはこのような厳しい環境にも適応できる耐久性が要求される。それに加えて、自動車は人命に関わることから高い安定性が求められ、開発したからといって自動車メーカーが安易に採用に応じるわけでもない。長い歳月をかけた検証が要求されるため、車載半導体への新規参入は容易でない。
韓国政府も対応策を急いでいるが、車載半導体市場に参入しようとする企業は少ない。打開策があるとすれば、サムスン電子が世界的な車載半導体企業を買収し、市場参入することではないだろうか。
今回の半導体不足を機に、各国政府は半導体のサプライチェーンの問題にも気づいた。半導体の生産を台湾や韓国に依存しすぎていることがわかったのだ。「半導体を握るものが世界を制覇する」といわれるくらい、半導体は産業の競争力を左右するコア部品である。それが特定の国・地域に集中していることに危機感を覚えた米国バイデン政府は、米国内に生産拠点を設ける方針を打ち出している。
世界の半導体需要の4割を占め、世界一の電気自動車市場をもつ中国ではこれを機に、車載半導体市場でチャンスをつかむ機会をうかがっている。車載半導体の安定調達は、自動車メーカーの命運を分ける重要な要素になりつつある。車載半導体は成長著しい次世代の有望市場と考えられていることから、この市場をめぐって激しい競争が繰り広げられると予想される。半導体市場の動向とともに、車載半導体市場の行方に世界中の注目が集まっている。
(了)
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