2024年12月23日( 月 )

イーロン・マスク氏が先導役を務めるBMIビジネスの最先端事情

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年5月7日付の記事を紹介する。

 世界を騒がすことに関しては天才的な能力を発揮するのがイーロン・マスク氏である。確かに、電気自動車の「テスラ」から宇宙ロケットの「スペースX」の開発などを通じて世間をあっと言わせる一方で、サルやブタの脳にチップを埋め込み、ゲームを楽しませるような奇想天外なチャレンジ精神を誇示している。

 そんなマスク氏がこのところ力を注いでいるのが人間と人工知能(AI)の合体だ。実は、こうした試みはアメリカ政府、とくに国防総省が長年、研究開発に公的資金を投入してきたものである。

人間 人工知能 イメージ たとえば、「国家AI安全保障委員会(NSCAI)」ではAI、マシーン・トレーニング、その他、国家の安全保障に関する総合的な関連技術の研究開発を主導してきた。議長はGoogleの親会社「アルファベット」の元代表であるエリック・シュミット氏。同氏の主張は「アメリカ政府が今、立ち上がらなければ、シリコンバレーは技術戦争で中国に負ける」というもの。アメリカの連邦議会では民主、共和党を問わず、こうした危機感を共有している。

 確かに、中国は「AI医療診断サービス」や「スマートシティ構想」でアメリカの先を行く動きを加速させている。これまでも中国は「顔認証システム」をジンバブエへ、「スマートシティ構想」をマレーシアに輸出してきた。さらには、インドでのモバイル決済「ペイTM」はすでに中国企業がコントロール下に置いている。

 モディ政権が進める「キャッシュレス・インディア」計画であるが、実質的には中国の関与が不可欠というほど、中国への依存度を高めており、国境線をめぐり中国と武力衝突を繰り返すインドではあるが、水面下で中国との関係維持に腐心しているようだ。

 2018年の「国防権限法(National Defense Authorization Act)」に基き、アメリカでは第4次産業革命がスタートした。そのポイントは「データが新たな石油」との認識である。そうした認識に基き、アメリカ政府は中国のAI戦略に対抗するために「共同AI研究センター(JAIC)」 を設立することになった。

 実は、ポーカーと戦争には共通点が見出せる。アメリカでは「リブラトゥス」と命名されたポーカーロボットが開発され、世界のトッププレーヤー4人を打ち負かした。17年のことである。それまでAIはチェスや碁では人間を凌駕してきたが、ポーカーは未知の領域ゲームであった。そこでの勝利で180万ドルの賞金を獲得したカーネギーメロン大学のサンドホルム研究員は「ストラテジー・ロボット」社を立ち上げた。そして軍事戦略の立案にも加わることになった。

 冒頭に紹介したマスク氏の新規ビジネスと関連するのが「人と機械のテレパシー」研究である。国防総省からライス大学の神経工学チームに800万ドルの研究費が支給されている。同省の先端技術開発局(DARPA)では18年からワイヤレスの頭脳リンクへの応用研究に資金提供を始め、22年には人体実験が始まる予定である。

 その研究の目玉は「MOANA(Magnetic, Optical and Acoustic Neural Access)光」を使い、1つの脳内神経活動の暗号を解読し、暗号化した後、別の脳内に送るという画期的なもの。しかも、必要な時間は「1秒の20分の1」という超スピードだ。この技術を応用すれば、盲目の場合にも視覚を取り戻せる可能性が高いと期待が高まっている。

 この分野では現時点でアメリカが中国を押さえているようだ。「フェースブック」のマーク・ザッカーバーグ氏は世界初の「テレパシー・ネットワーク構築」を計画。脳とコンピューターを結びつける研究を継続している。毎秒100ワードを考えただけでタイプできる縁なし帽を開発。世界では30万人以上が内耳インプラントによって音を電気信号に変換することで聞こえる力を獲得している現状から予測すれば、テレパシー通信の現実化も夢物語ではない。

 イーロン・マスク氏の「ニューラリンク」も脳とマシーンの一体化(BMI)技術で人をオーガニック・コンピュータへ転換させることを目論んでいる。すでにメリーランド大学のウイリアム・ベントレー教授の下では生物学的細胞をコンピューターの意思決定過程に一体化させる実験に着手し、人体の細胞の周囲にエレクトロンを配置することで、細胞が電流を起こし、通信用の電波を発信することも可能にするという。要は、人体が発電機に変身するというわけだ。

 世界中がコロナ騒動で揺れ動いているが、コロナ禍を逆手に取るような人体の能力向上研究が進んでいることは間違いない。コロナ騒ぎが収束した暁には、これまでとは違った世界が広がっているだろう。


著者:浜田和幸
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