2024年11月20日( 水 )

韓国がワクチンの委託生産拠点として浮上(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 米バイデン大統領は、世界で新型コロナウイルスのワクチン配分が不平等になっていることを打開するため、WTO(世界貿易機関)で提案された期間限定でのワクチン特許の一時放棄を支持することを表明。このため、多くの韓国製薬会社はワクチンの委託生産に関心を示し、市場に参入しつつある。今回は、ワクチンなどバイオ医薬品の受託生産ビジネスであるCMO(医薬品製造受託機関)について取り上げたい。

韓国がワクチンの委託生産に注目する背景

 バイオ医薬品の受託生産機関(CMO)には、莫大な設備投資と高い品質管理能力が求められる。装置産業の一種という点では、半導体産業におけるファウンドリー事業とも共通点がある。

 半導体の製造設備をそろえるには巨額な投資が必要であるため、半導体を設計する会社は、通常、半導体受託生産企業に生産を依頼する。台湾・TSMCはファウンドリー(受託生産)事業に専念し、今や半導体分野において世界で最も注目される企業となった。

 ワクチンの生産も半導体分野と似ている。たとえば、米国・モデルナは自社の設備をもたずに、受託生産会社に生産を外注している。韓国企業は半導体分野で培った厳しい工程管理技術と巨額の投資経験を活かし、バイオ医薬品の受託生産分野に参入している。半導体で成功したサムスンとSKバイオサイエンスが医薬品分野で最も成功しているのは理由があるのだ。

 加えて、韓国にはバイオ医薬品の複製品生産で世界1位のセルトリオン、2位サムスンバイオロジックスがあることも、韓国の強みである。サムスンバイオロジックスは、世界最大規模の生産量18万Lを誇る第3工場があるが、さらに生産量25万6,000Lの第4工場の建設に取り組んでいる。第4工場が完成すると、サムスンバイオロジックスの総生産能力は62万Lとなる。これは全世界の受託生産量の30%を占める。すなわち、世界最大の生産工場は韓国にあるということだ。

 SKバイオサイエンスもフランス会社を買収するなど、受託生産市場で成功を収めるため、着々と手を打っている。バイオ医薬品の生産能力は、1位が米国48万6,000L、2位が韓国38万5,000L。米国の生産能力はすでに飽和しており、今後は韓国に受託生産の依頼が増加するのは間違いない。

 また、既存の医薬品開発ではグローバル企業の活躍が目立ち、韓国の製薬会社は外国で開発された医薬品を輸入し、販売するのが常であった。製薬会社というより医薬品卸と言ったほうが正しい。しかし、市場はジェネリック医薬品(後発医薬品)からバイオ医薬品に軸が移り、バイオ医薬品の受託生産を依頼する案件が増えつつある。

 特許の高い壁に阻まれ、これまで世界的に競争優位性のなかった韓国製薬業界であったが、ワクチンの大量生産の必要性から受託生産分野に新しい可能性を見出し、勝負をかけている。今後、どのような展開になるのか、興味が尽きない。

(了)

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