2024年12月23日( 月 )

シラス様台地で行われた杜撰な国道工事~朝ドラ『おかえりモネ』の舞台近くで起きた道路工事問題(前)

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福島自然環境研究室 千葉 茂樹

 九州では、シラス台地の災害が毎年起きて問題となっているが、実は日本各地のシラス様の火山噴出物からなる地盤でも、もろさのために道路工事で問題が起きている。朝ドラ『おかえりモネ』の舞台である岩手県一関市の白崖集落において、宮城県石巻市と岩手県一関市を結ぶ国道342号線のバイパス工事(下記地図)で起きた問題は、シラス台地にも見られるものであり、多大な労力と時間がかかる災害であることを知ってほしい。

白崖集落の地域の地質と地形

 白崖集落は、宮城県登米市から約10km北にある岩手県一関市花泉町永井に位置する。この地域の調査論文(松野氏、1967年)によれば、白崖集落の地質は新第三紀鮮新世(約200万年前)の金沢(かざわ)層の凝灰岩である。通称「白崖(しらがけ)」の所以は、この白色の凝灰岩の崖にある。凝灰岩と言っても岩石ではなく、火山噴火で生じた軽石や火山灰からなるため、その大半はパサパサである。九州地方では、「シラス」が有名である。

 この凝灰岩は、陸上の堆積物もあれば浅い海でできた地層もある。浅い海でできた地層では、地下水を通しにくい不透水の粘土層が見られると井戸を掘ることができる。しかし、不透水層のある斜面を工事で削った場合、不透水層が起点となり地滑りを起こす可能性があるため、注意が必要である。

 白崖集落は、シラス様台地に谷が入り込んだ痩せ尾根が馬の背状に続いている地形だ。尾根の斜面は、軽石や火山灰の斜面崩落物が長い年月をかけて何とか安定斜面をつくっているが、この場所に国道のバイパスがつくられ、問題が発生している。

問題の概要

 道路工事における問題は、大きく2つある。

 1つは、シラス様台地の斜面に、地質のもろさを考えずに国道のバイパスをつくったことだ。この場所では、すでに崩壊が始まっている。

 もう1つは、土木事務所(一関土木センター)と施工業者が、もろい地質を無視し、図面上だけでルートを決めて無理やり道路をつくったことだ。施工業者はパサパサの土を固めるため、「強いアルカリ性」を示す生石灰(酸化カルシウム)を大量に使った際に安全な施工方法を無視して工事を行なった。

問題(1)地質のもろさ

 バイパスは3月13日の開通(写真1)から1カ月で、「道路側面の崩壊」「道路脇の切断面の崩壊」「土砂の流出」が始まっている。

新国道バイパス
写真1 新国道バイパス

 本来の国道は、馬の背状に続く痩せ尾根の上にあったが、バイパスは尾根のすぐ下の斜面につくられた。新しいバイパスは地質のもろさをまったく考慮しておらず、適切な工事が行われなかった。工事の途中で「地質のもろさ」が問題となり、工事費が大幅に追加された。

 道路工事では、里山を切り崩したときに出てきたパサパサの軽石・火山灰に生石灰(酸化カルシウム)を混合して、斜面につくる道路の盛土に使った。軽石や火山灰は本来パサパサのため、生石灰で固まるはずもなく、仮に固まったとしても、盛土のなかの軽石は車の重みで潰れる。

 開通から1カ月で、道路側面の崩壊も始まり(写真2)、長い年月をかけて何とか安定していた斜面を切り崩したため、道路脇では崩壊や土砂の流出が始まっている(写真3)。

写真2 道路側面の崩壊
写真2 道路側面の崩壊
写真3 斜面切断面の崩壊
写真3 斜面切断面の崩壊

 道路の側面や切断面の崩壊、土砂の流出は今後も続くと考えられるため、これからの梅雨の時期に大規模な崩壊が起きないことを祈るのみである。

(つづく)


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

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著者の論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
 原発事故関係の論文
 磐梯山関係の論文

この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。

(後)

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