2024年11月22日( 金 )

シラス様台地で行われた杜撰な国道工事~朝ドラ『おかえりモネ』の舞台近くで起きた道路工事問題(後)

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福島自然環境研究室 千葉 茂樹

 九州では、シラス台地の災害が毎年起きて問題となっているが、実は日本各地のシラス様の火山噴出物からなる地盤でも、もろさのために道路工事で問題が起きている。朝ドラ『おかえりモネ』の舞台である岩手県一関市の白崖集落において、宮城県石巻市と岩手県一関市を結ぶ国道342号線のバイパス工事(下記地図)で起きた問題は、シラス台地にも見られるものであり、多大な労力と時間がかかる災害であることを知ってほしい。

問題(2)人為的な事故

 白崖集落のバイパス工事の施工業者は2020年12月1日、軽石・火山灰と生石灰の混合を工事現場で行ったため、斜面を噴き上げる風によって、生石灰が集落に降り注ぎ、主に家屋や車に被害を与えた(写真4)。このような地形では、太陽光で暖められた空気が山谷風の原理で斜面に沿って上昇して強風となるためだ。

写真4 生石灰による被害
写真4 生石灰による被害

 生石灰(酸化カルシウム)は、水に触れると強いアルカリ性を示すため、人の目・口・鼻・気管支や肺に入ると激しい炎症を起こし、家の屋根や車では、付着すると化学反応を起こし(焼ける)、危険だ。

 このように現地での混合作業は、以前にも問題となっていたため、発注者の岩手県(一関土木センター)は「工事現場でこの作業をしないように」と再三指導したが、施工業者はこれを無視して現地で混合作業を行い、今回の問題が発生した。一関土木センターも口頭で注意するだけで、実際の工事現場では状況を確認していなかった。

問題(2)の事後処理

 加害業者は家屋の屋根について「洗浄と補修を約束した」が、実際に被害回復作業が実施されたのは、2021年4月28日から5月18日であった(写真5)。車の被害については、2020年12月2日に「ディーラーでの修理」を指示したが、筆者の車は、分解が必要な複雑な機構に被害を受けたため修理が多岐に渡り、完了したのは5月17日であった。

写真5 被害回復の作業

問題の総括

 これらの問題が起こった原因は3つある。1つ目は、ルート計画の不備である。シラスのようにもろい地質の地域では、できる限り地形に手を加えるのを避けて現地形を利用しなければいけないが、土木事務所はこの地域の地質を考えず、地図上でルートを決めた。筆者なら、現地形を利用した別ルートを勧める。

 2つ目は、一関土木センターが現地の見回りをきちんと行わなかったため、施工業者は一関土木センターの指導を再三無視した。問題が起きた12月1日も、一関土木センターの職員が現地にきたのは、通報から4時間後であった。

 3つ目は、地域では住民によって工事に対する関心の程度が異なるため、回復作業も各戸別々の対応となった。筆者は問題が発生した直後に地域住民を訪問して状況や証拠写真の撮影、今後の対応方法を伝えた。地域一丸となって、被害回復を業者に交渉した方が得策であるが、実際には「面倒がる家」「拒否する家」があり、地域一丸とはならなかった。

最後に

 いったん問題が発生すると、被害回復には多大な労力と時間を要するため、今回のような軟弱地盤の工事では、ルートが発表された時点で、地域として賛成か反対かを明確に打ち出し、場合によってはルートの変更も要求せねばならない。何事も、出発点が大切である。

 この地域は、筆者の故郷であり、実家の保守管理のために年間60日ほど訪れているが、居住していないためこの工事に対する積極的な発言はできなかった。仮に、筆者がルートを決めるならば、もろい地質を考慮して「今の地形を利用した自然に優しいルート」を提唱する。

 九州地方はシラス地盤が多く、同じような問題が起きる可能性があるため、今回のような問題が発生しないよう本記事が参考になれば幸いである。

(了)


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

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著者の論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
 原発事故関係の論文
 磐梯山関係の論文

この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。

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