2024年11月27日( 水 )

【都議選】小池劇場、再び? 「6.1中止宣言」の先に見据える総理の椅子

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得意技「豹変芸」で狙うは前回都議選の再現

 「東京五輪 『6.1中止宣言』の現実味」(5月19日のサンデー毎日)など、「小池百合子都知事が6月1日に五輪中止表明をするのではないか」といった見方が広がっていた5月21日、私は小池知事会見でストレートに聞いてみた。お気に入り記者を質問者として優先的に指す“記者排除”への抗議も兼ねて会見直後にこんな問い掛けをしたのだ。

 「五輪中止は言わないのか。感染爆発、ステージ4でも開催するのか。都民の命二の次、『都民ファ』ではなくて『五輪ファーストの会』ではないか。(都議選で)『五輪ファ』だと惨敗するのではないか。バッハ(IOC会長)の言いなりか。『売国奴』『国賊』と言われても仕方がないのではないか。『都民ファ』ではなくて『五輪ファ』ではないか」

 しかし小池知事は、私の声掛け質問に対して一言も発しないまま、会見場から立ち去って行った。1週間前の5月14日の定例会見で小池知事は、五輪関連質問に対して「(五輪が)政局絡みで語られるのはいかがかと思う」と不快感を露わにしながら、「安全・安心を担保する対策を進めていく」と強調していた。この日も会見終了直後、「五輪中止は言わないのか。都民の命、二の次、『(都民ファを)五輪ファーストの会』に変えるのか」と小池知事に大声を張り上げていたのだが。

都民ファーストの会総決起集会~前回都議選(2017年)で
都民ファーストの会総決起集会~前回都議選(2017年)で

 表向きは、五輪開催強行の菅政権と同じ立場を続ける小池知事だが、手の平を返すように五輪中止を表明する可能性は十分にある。4年前もそうだった。小池知事が名誉顧問を務める「都民ファーストの会」が前回の都議選で圧勝、自民党を歴史的惨敗に追い込んだ時も小池知事は6月1日に豹変したのだ。

 当時も、それまでは自民党都連とは対立しても安倍政権批判は控えるなど、都政と国政を切り分けていた。しかし6月に入った途端、「緑のたぬき」の異名を持つ小池知事は突然、国政と都政を一体化させて対決姿勢を鮮明にした。6月1日の都民ファの総決起大会で自民党離党を報告、直後の囲み取材では安倍政権の隠蔽改竄体質を批判し始めた。

 当時、安倍政権はモリカケ問題で内部告発文書を怪文書として切り捨てたり、黒塗り文書を出して事足りていたが、これを追及していた野党に同調、批判する側に回ったのだ。

 都民ファ候補の応援演説でマイクを握ると、「情報公開の徹底は政治の質の問題、政治の基盤、都政の基盤である」と訴えて、政策決定過程をブラックボックス化する安倍自民党との違いを強調。「郵政民営化イエスかノー」を問うた小泉郵政選挙を真似るかのように、「情報公開(透明化)イエスかノーか」の選挙戦を仕掛けていた。

 小池知事の豹変(瞬間変身芸)の効果は抜群だった。自民党離党前の世論調査では自民17%、都民ファ11%だったが、離党を機に都民ファの支持率は上昇に転じ、すぐに自民党と並び、一気に追い抜いて都議会第一党へと大躍進したのだ。

小池知事の最終ゴールは総理大臣

 4年前と現在の政治状況は酷似している。「五輪の延期・中止」が世論調査で過半数を大きく上回っても菅政権は開催強行姿勢を変えず、野党は「ステージ4、感染爆発でも五輪開催をするのか」「五輪開催と国民の命を守ることは両立するのか」などと厳しく問い質している。モリカケ問題で隠蔽改竄対策が露呈、支持率下落の安倍政権を徹底追及した時と同じように、である。

 小池知事が、「野党と同じ五輪中止の立場に豹変すれば、五輪反対の世論を味方につけて2度目の都議選圧勝も夢ではない」と考えていないはずがない。さらにその先に「“菅五輪(スガリンピック)”を止めた立役者となり、圧倒的な国民的支持を追い風に国政転身をすれば、総理大臣ポストへの道筋を切り拓くことも十分に可能だ」というシナリオを思い描いてもまったく違和感はないのだ。

 20万部突破の『女帝』を執筆した石井妙子氏をはじめ、「小池知事の最終ゴールは総理大臣」と見ている人は少なくない。自らの目的達成のためには、これまで五輪開催で足並みをそろえてきた菅首相を見捨てて、野党と同じ五輪中止に転じることは極めて合理的決断といえる。

緑のたぬきの「豹変芸」は出るのか、6月1日に注目だ
緑のたぬきの「豹変芸」は出るのか、6月1日に注目だ

 一方、菅首相と“心中”した場合はどうなるのか。都議選では「五輪開催イエスかノーか」が一大争点となるのは確実で、このままでは「五輪強行の自公維・都民ファ 対 中止の立民・共産・社民・国民・れいわなどの野党」という構図となる。当然、「都民の命を最優先にする『都民ファ』ではなくて『五輪ファーストの会』なのか」といった批判が噴出、都民ファ惨敗となる可能性は高い。「自分(選挙)ファースト」を貫いてきた小池知事がこんな負け戦をすんなりと受け入れるとは考えにくいのだ。

 しかも2017年総選挙で「希望の党」公認がもらえずに排除された立民と、排除した小池知事が五輪中止で連携すれば、過去の経緯を水に流した“現代版薩長連合”といったサプライズ効果も期待できる。“小池劇場”の舞台設定は着々と進んでおり、いつ再開幕しても不思議ではない。“菅五輪”と心中するのか、それとも訣別するのか。運命の6月1日が迫る。

【ジャーナリスト/横田 一】

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