JR西日本、事故をなくす体質にするには(前)
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運輸評論家 堀内 重人 氏
JR西日本といえば、「大事故を起こした会社」というイメージが根強い。とくに、2005年4月25日に発生した福知山線の脱線事故では、107名も死亡するという、近年では稀に見る大事故となった。JR西日本が事故やインシデントの発生しづらい体質に生まれ変わるためには、どうしたらいいのか。
JR西日本は、2005年4月の福知山線の脱線事故以外に、表1で示すように死者まで出す重大事故を起こしている。
上の表以外にも、一歩間違うと大事故につながる重大インシデントが、17年12月11日に新幹線で発生している。この重大インシデントは、新幹線の台車の亀裂問題である。
問題が発生した列車は、山陽新幹線に直通する「のぞみ34号」であるが、この列車はJR西日本が所有する車両で運転されていた。
列車が、岡山駅を発車した段階で、異臭がするなどの異常が発生していたが、そのまま運転が継続された。新大阪から先はJR東海の管内に入るため、新大阪で乗務員が交代する。新大阪以降は、異臭だけでなく、床下からの異音などの異常が酷くなったこともあり、名古屋で運転を打ち切って車両を調べたところ、台車に亀裂が生じていた。
JR西日本のHPには、台車の亀裂だけでなく、13号車の歯車箱付近に油漏れや、継手の変色が確認されたとある。異臭の原因は、油漏れが原因と見ても良いだろう。そのまま走行していたら、脱線転覆を起こし、非常に危険であった。
新幹線は、300km/hの高速で運転することに加え、1編成で最大1,323名が乗車する。もし脱線転覆した列車が、反対側の本線を塞ぎ、そこへ対向の列車が来れば、目も当てられないほどの大惨事になっていた。新幹線は、大量高速輸送機関であるため、一度事故を起こすと、取り返しのつかない大惨事に発展する。
ここで問題となるのは、JR西日本の乗務員が、車両で異臭が発生していた事実を、JR東海の乗務員に伝えていなかったことである。この事実が伝わっていれば、新大阪で運転を打ち切って、車両を検査することができた。もし新大阪から名古屋まで走行している間で、事故が発生していたらと思うと、ぞっとする出来事である。
国土交通省も、このインシデントを重く見たこともあり、JR西日本は安全向上策として、新幹線の安全運行を担う「走行管理班」を復活させて、保守・検査部門の拡充を、事故発生から1年以内に実施した。さらに振動などから異常を検知する装置の新幹線車両への取り付けを進めた。
これは事故ではないが、下手をすれば事故につながる問題が、JR西日本では発生している。尼崎労働基準監督署は、12年10月に過労で自殺した社員の男性について、13年8月に労働災害を認定している。自殺した社員は、最長で月254時間も残業していたという。1日に8時間、休日返上で働いたとしても、240時間の労働である。それが残業だけで月に254時間であるため、いかに異常な勤務状態であったかを物語っている。
この件に関して遺族は、13年10月にJR西日本に対し、1億9,000万円の損害賠償を求め、大阪地方裁判所に提訴している。自殺した社員が配属されていた部署はわからないが、もし現場の勤務であれば、勤務中に過労死しても不思議ではなく、運転士であれば大事故につながった可能性もあり、勤務形態や社員の健康管理にも問題がある。
勤務形態に関しては、05年4月25日に起きた福知山線の脱線事故でも問題視された。あの事故は、尼崎駅へ入る手前に60km/h制限の急カーブがあり、危険であるとわかりながら、JR西日本が最新式のATS-P(自動列車停止装置)を設置していなかったことが、まず問題視された。
この事故に関しては、JR西日本の社風も問題視され、懲罰的な「日勤教育」が行われていたことも、非常に重大な問題点とされた。この事故は、運転士がダイヤの遅れに対し、処罰を恐れて無謀な運転を行った。結果として、脱線して遠心力でビルの壁に追突して大惨事になった。ビルの壁に激突したときには、100km/hを超える速度が出ており、制限速度を40km/hも超えていたため、カーブが曲がり切れなかったという。
もし懲罰的な日勤教育などが行われていなかったならば、運転士は心に余裕をもって運転できたであろう。また国鉄時代は、並行する民鉄との競争に対し、劣勢であったことから、民営化後は少しでも競争力を強化したく、積極的にスピードアップを実施した。
しかし、少しでもスピードアップを図り、民鉄との競争を優位に進めようとした結果、ダイヤにゆとりがない、「過密ダイヤ」になってしまった。この点も問題視され、ダイヤにゆとりがあれば、若干の遅れであれば取り戻すことができただろう。そうなれば尼崎の大事故は、起きなかった可能性があるという指摘もある。
(つづく)
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