老化は確実に進む(7)17億円で会社を売った人 8億円で売れない人
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全国展開と技術継承の可能性が高評価
17億円で会社を売ったAは76歳。慰労会を73歳のBの別邸で行った。Bの会社には8億円の値が付けられている。Bも自身の会社を売る策を練っており、探りを入れる意図もあって慰労の飲み会となったのである。参加者は6名。料理は寿司を含めて宅配ばかり。結構な量をそろえており、予想通りに残ってしまった。赤白ワインはグレードの高いイタリア産であり、参加者全員が「おいしい」と堪能して飲んでいた。
AがM&Aを決断した理由は2点。(1)もし自分が体調を壊したときに事業の継続が可能かどうか自問自答した末、無理と判断したため、(2)一緒に事業を立ち上げた最愛の妻の認知症が悪化しており、自分がケアをしようと覚悟したためである。銀行の仲介のもと、2年間、売却先と議論を積み重ねてきた。結果、2つの事業は売却対象から外れた。その外れた事業はAがそのまま引き継ぐことにしたが、時間をかけて若いやる気のある人物に事業譲渡することに決めた。
AのケースでM&Aが成立した理由について筆者は研究してみた。(1)一定以上の事業規模。営業所は20カ所を超えている。十分とはいえないが、経営者Aに依存しなくとも組織がまわっていくパワーを有している。また全国で事業を展開する最大の顧客がAの全ての営業所の売上の30%を下支えしており、それがAの会社に精神面で余裕を与えてくれているという特殊な要因がある。
(2)技術面での継承性。Aは同業者に対して優位性を保つため、技術を極めることに日夜没頭してきた。組織として卓越した技術力をもって武装できたことで同業者との価格競争に超然として対応することができた。そして何よりもA個人にとどまらず、会社組織全体として技術を習得できている点について買主が認識したことがM&A成立の原動力となった。買主は「経営者が抜けた際に組織が腑抜けになること」を怖がるものである。
会社のすべてをBが体現
Bの設計思想は凡人にはおよびつかない。社員はBの能力に感服しており、役所発注の仕事さえもBに託すことが慣例となっていた。それゆえ少数精鋭の従業員で事業をまわしてきたために、業界では高収益企業として名前が轟いていた。財務面でも抜群の蓄積をしている。そのため、企業価値について、その売上高からみれば驚くことに8億円の値が付けられた。年商の2倍である。Bは2年前にも企業売却について検討したのだが、「商談成立は無理」と結論を下していた。
M&Aが成立するケースにおいて、財務面で優秀であれば成立するわけではない。買手の購入を促す最大の要因は「経営者が抜けても業績が落ち込むことはない」という確信である。Bは自分の資質・性格を十分に承知しており、「自分が抜けたらば会社の業績は一瞬にして悪化する」ことをわかっている。Bは晩餐会の夜もしみじみと語った。「俺は終身現役を貫く。俺にもしものことがあったなら、幹部社員たちで切りまわせばよいであろう。5年は十分にまわしきれるはずである」と。
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