福島第一原発事故後に見られた「黒い土」はなぜ高い放射線を出したのか?~原因を解明した論文が公開(前)
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福島自然環境研究室 千葉 茂樹
福島第一原発事故後に見られた「黒い土が高い放射線を出した原因」を解明した筆者らの論文(※)が、2021年6月30日発行の『環境放射能除染学会誌』に掲載された。論文の概要を以下に紹介する。
黒い土とは
東北地方太平洋沖地震が2011年3月11日に起こり、その直後に福島第一原子力発電所事故(以下、福島原発事故)が起きた。福島原発から放出された放射性物質は、福島県のみならず関東地方まで濃厚に汚染した(下図参照)。その後、東北地方や関東地方で、高い放射線を出す「黒い土」が目撃された。ネット上でも話題となり、「黒い土」や「路傍の土」と呼ばれた。
筆者も2011年6月、調査地域の空間線量率の高い場所の地面に特有の形状の土を確認した。色は真黒が多く、表面は「カリフラワー」や「おから」「お菓子のマコロン」のような特有の形状であった(下の写真参照)。
一方、「黒い土」の「高い放射線を出す原因」は突き止められていなかった。報道やネット上では、「コケに吸着」「イシクラゲ(湿った陸地に生える一種の海藻)に吸着」などさまざまな原因がささやかれた。一部では、「鉱物(岩石をつくっている粒粒)に取り込まれる」との説もあった。
筆者らの研究
筆者は当時、福島市渡利に居住しており、福島原発事故直後に起きた身体の異常や周辺環境の変化から、この状況を後世に残さねばならないと考えて、放射線計を入手して空間線量率の調査を始めた。この調査内容を学会の機関紙に連続投稿していたところ、名古屋大学名誉教授の諏訪兼位氏から連絡を受けて、名古屋大学名誉教授の鈴木和博氏とともに3人で共同研究をすることとなった。
実際の研究では、筆者が重要なポイントで「綿密な記載」と「試料採集」の野外調査を行った試料を名古屋大学に送り、鈴木氏が名古屋大学の各種機器を用いて入念に分析した。鈴木氏の実験は12年に始まり、13年には名古屋大学のシンポジウムで中間報告が行われた。その成果は「粘土鉱物のスメクタイトが放射性セシウムを取り込むため、高い放射線を発する」であった。
この研究成果はまだ中間段階であり、次の研究目標は「スメクタイトがなぜ放射性セシウムを濃縮するのか」であった。鈴木は15年まで試行錯誤しながら実験を続けて、16年にその成果をまとめて某学会誌に投稿した。ところがなかなか受理されず(論文として認められず)、鈴木氏が16年10月15日に急死した。その後も他の研究機関に投稿したが、こちらも不受理であり、諏訪氏も20年3月15日に急死した。
筆者の研究は野外調査が主であり、各種機器を使った分析はまったくの専門外であった。しかし、筆者は両名の論文にならなかったことに対する無念さを思い、20年夏に専門外の学問内容を勉強して論文として書き上げた。研究内容のみではあまりに専門的で多くの人が理解できないため、鉱物に詳しくない人でも理解できるように、論文には、鉱物(岩石をつくる粒々、スメクタイトなど)の分析方法「X線解析分析の原理」「蛍光X線分析の原理」および「珪酸塩鉱物の基本からスメクタイトまでの解説」も書き加えた。
この解説の後に、本題である「スメクタイトに放射性セシウムが濃集する原理」を書いた。この原理を要約すると「スメクタイトは層状構造(本を横から見た状態)のため、層と層の間に金属イオン(ナトリウムイオン、カルシウムイオン、セシウムイオンなど)が入り込む。セシウムイオンはこの層間から出ていきにくいが、他のイオンは出ていきやすいため、スメクタイトの層間に徐々にセシウムイオンが濃集した」となる。
スメクタイトは、園芸で使う「ヒル石(バーミキュライト)」の仲間である。学校の校庭などに「薄金色に輝く極めて細かい紙切れのようなもの」が見られるが、これらはバーミキュライトまたはスメクタイトである。また、昭和の時代には、壁の化粧塗装にも同様に薄金色のものが混じっていた。この多くもバーミキュライトまたはスメクタイトだ。
今回の論文は鈴木氏の残した原稿と関連資料を基に筆者が作成したが、その原稿は、鈴木氏が亡くなる10カ月ほど前に書いたものであった。体調がよほど悪かったようで、誤字脱字が多く意味の通らない文章もあった。筆者は自身の専門分野であれば容易に読みこなせるが、専門外であったために解読と修正に多くの時間を要した。
(つづく)
※:この論文は環境放射能除染学会HP より、ダウンロードできる。京都大学名誉教授・吉田英生氏のHP(PDF)にも掲載された。 ^
<プロフィール>
千葉 茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。データ・マックスの記事
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原発事故関係の論文
磐梯山関係の論文この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。
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