2024年11月22日( 金 )

“小池静養劇場”のシナリオとは?

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 6月22日に過労で入院し、30日に退院した小池百合子東京都知事が、病院で都議選対策を行っていたことがわかった。告示日の25日、「都民ファーストの会」の平けいしょう候補(千代田選挙区:定数1)に対して激励のコメントを送っていたことが明らかになった。選挙区内を自転車で回っている平候補を直撃、小池知事の動向について聞いた。

 ――小池知事は休養されていますが。

 平けいしょう候補(以下、平) 頑張ります。

 ――応援に来れないのでは?

 平 ゆっくり休んでほしい。

 ――本当に過労なのか。

 平 いやー、どうなのですか。

 ――(小池知事は都民ファ候補を)応援したくなかったのではないか。見殺しにされるのではないか。

 平 いやいや。ずっと応援している。今日も(小池知事の)コメントをもらっています。頑張っていますから。

 “小池静養劇場”のシナリオが透けて見えてきた。過労入院で「小池知事は頑張ってきた」といった有権者の同情を買う一方、都民ファ候補を励ますコメントを病室から発信するというものだ。メディアコントロールの天才しか思いつかないような都議選対策の効果は抜群。入院後の世論調査では都民ファの支持率が11%から17%に増加したのに対して自民党は30%から23%に減少、19%差を一気に6%差にまで縮めたのだ。たっぷりと静養しながら世論動向を見て、高笑いする小池知事のドヤ顔が目に浮かぶようではないか。

 4年前の都議選でも小池知事は、6月1日の自民党離党を機に対決姿勢を強めて都民ファ支持率の急増につなげたが、今回は過労入院の同情票で猛追モードに入ったといえる。

 入院中の小池知事からコメントをもらった平候補が出馬した千代田区は、都民ファが最も重視する選挙区。ほかには、ドン内田こと内田茂・元都議の娘婿である自民党の内田直之候補(公明推薦)をはじめ、共産党の富田直樹候補や無所属の浜森香織候補が1議席を争う激戦区だ。

 大きな争点である五輪については自民党が賛成、共産党は反対(中止)と明快だが、都民ファは無観客を主張しているのに小池知事は菅政権と足並みをそろえるという不明瞭な立場だ。そこで、平候補に「(小池知事が)五輪中止、無観客を言わないのは無責任ではないか」と声かけ質問をしたが、何も答えないまま走り去ってしまった。

 “小池静養劇場”のもう1つの狙いも見えてきた。五輪強行の菅政権に異論を唱えないことで対立激化を回避、国政転身(自民党復党)にプラスになるように恩を売る魂胆だ。「五輪第一、都民の命二の次」「自分(選挙)ファースト」ともいえるが、都民の命を守る知事の職責放棄であることは明らかだ。感染拡大時の五輪中止基準づくりを求めた東京都医師会の意見書(地区医師会などとの連名)を無視し続けたからだ。

 小池知事の過労入院が発表された6月22日、尾崎治夫・都医師会会長は臨時会見で「五輪開催についての意見書」を提出したことを明らかにした。その内容は、開催を契機に感染拡大や通常医療の圧迫を招く場合、「無観客または中止とすることも考慮していただきたい」というものだった。

 感染爆発(ステージ4)でも五輪開催を否定しない菅首相に対して小池知事は当然、尾崎会長と一緒にこの意見書を突き付けて、五輪中止基準づくりを求めても不思議ではなかったが、「その予定はありません」(22日の尾崎会長会見)。都民の命を守る都知事の職責を投げ出し、菅政権(首相)にゴマをする対応を取ったとしか見えない。

 仮に小池知事が意識不明の重体であり続けていたのなら意見書無視の職務怠慢は許されるだろうが、実際には病室から平候補にコメントを送る選挙活動に精を出していたのだ。

 五輪開催強行の菅首相に「中止基準をつくるべきだ」と迫ることもなく、都医師会の五輪意見書を無視して病院に駆け込んだ小池知事に同情するのは「笑止千万」「ちゃんちゃらおかしい」としか言いようがない。過労入院の4日前(6月18日)の都知事の臨時会見で、私はこんな声かけ質問をした。

 「リバウンドしても五輪開催をするのか。ステージ4(感染爆発)でも中止要請をしないのか」「菅五輪と心中か。都民の命二の次、五輪ファーストではないか。ちゃんと仕事をしてください。怠慢知事と呼ばれても仕方がないのではないか」。

 もし静養中の小池知事に問いかける機会があったら、私は「怠慢知事」と叫んでいただろう。「メディアコントロールの天才」「世論操作の魔術師」と呼ぶのがぴったりの小池知事に騙されてはいけない。

【ジャーナリスト/横田 一】

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