2024年12月21日( 土 )

ストラテジーブレティン(283号)米国トリプル高、日本ダブル安の行方(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年7月5日付の記事を紹介。

世界の金融市場を貫く米国買い、米国トリプル高

 このように考えると、今世界の金融市場の動きを貫いているトレンドは米国買いである、という結論に至る。米国株高、米国債券高、ドル高の同時進行である。世界のデジタルネット革命を牽引し、かつ景気見通しが先進国中で突出して強い米国経済に対する信認の高まりといえる。

2014~15年の経験、米国トリプル高長続きせず

 ただ過去を振り返ると、米国のトリプル高はあまり持続性がなく、株式市場は波乱色を強める傾向が強かった。【図表7】によって振り返ると、リーマン・ショック以降トリプル高が最も顕著だったのは、テーパリングが始まった2014年後半から15年にかけてであったが、株価はその後チャイナショックもあって乱調となった。

図表7

 【図表8】によって米欧日中銀の総資産推移を見ると、14年1月から始まったテーパリングによりFRBの総資産が横ばいとなり、ドル高をもたらした。今回も米国の一早いテーパリングはドル高をもたらすだろう。すでにFRBの資産増加ペースはECBのそれよりも鈍化している。金利差に加えてドル高が想定されるとすれば、海外投資家は米国国債投資意欲を高め、米国長期金利は下押し圧力を受け続けるかもしれない。14年以降米国国内投資家(機関投資家、金融機関、家計)も米国国債取得を大きく増加させたが、今回も運用難に悩む国内投資家の参入も想定できる。となると、米国国債需要の高まりで債券高も続くかもしれない。

 しかし、株高の持続性には警戒が必要だろう。米国経済と企業収益の急伸に支えられて先駆し続けている米国株式は、今年末から来年にかけてバリュエーション上割高感が出てくるだろう。15年のチャイナショックのような外部リスクに対する脆弱性の高まりに留意すべきであろう。

図表8

日本に現れたダブル安は一時的

 米国とは対照的に、日本市場においては株式だけでなく日本円の弱さも際立っている。株安、円安のダブル安である。これは日本売りだとの悲観説も流布される。たしかに日本経済見通しは、ワクチン接種の遅れもあって先進国で最も弱い。しかし、ワクチン接種の急ピッチの進展で10月にはほぼ集団免疫が成立する接種率70%に達する見通しで、年末にかけて景況感は急速に改善されるだろう。IMFや世銀などの経済見通しにおいて、とくに日本は大幅な上方修正が見込まれる。

円安こそ日本景況と株価に決定的

 それ以上に円安が日本経済と企業収益を大きく押し上げるだろう。対ドルでは今年初めの高値から10%安だが、対ユーロや対韓国ウォン、台湾ドルなど貿易で競合している国との間では15%以上の大幅な円安になっている。この円安は日本の企業業績を大きく押し上げるだろう。6月日銀短観の前提レートはドル106円、ユーロ122円なので、上方修正余地は大きい。円安はまた日本企業の価格競争力を大きく押し上げるだろう。国際市場で活躍しているハイテク企業、グローバルニッチトップ企業、あるいは観光業は競争力を大きく高めるだろう。

図表9

 円安こそ日本のデフレ脱却と企業の業績回復の切り札になる。【図表9】に見るように、日本経済と株式は日本円の相対レートに強く連動してきた。09~12年の円高・日本株劣位、13~16年の円安・日本株優位、16~19年の円高・日本株相対劣位と推移してきた。しかし、19年末以降対ドル以外では日本円の下落基調が始まり、21年に入りそれが加速している。

 円安は株高要因なので、今のダブル安は一過性と考えるべきであろう。

(了)

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